第92話 縦セタ催眠

 パァン


 手を叩く音。後輩の詩音が、上目遣いで睨んでいる。


「先輩のエッチ。こんな格好させて、どうするつもりですか?」


 そう言って詩音はスカートの裾をぎゅっと握った。ノースリーブで極ミニのリブニットワンピース、いわゆる縦セタ。ミニすぎて、ワンピースというよりは少し丈の大きいセーターだけ着て、下は穿いてないような姿になっている。やけに警戒が強いのは……詩音はこのワンピースの下に何も着ていないからだ。ニット生地越しに乳首が浮かんでいる、ということは流石に無いが。


「別にいいだろ、似合ってるし。可愛いよ」


 俺は小さく笑いながらそう言って、詩音の正面に座る。


「今度のデートはその格好でしよっか?」

「ひっぱたきますよ、本当に」


 詩音の反応に俺は少し吹き出して、それから詩音に抱きつくようにして抱きしめた。


「かわいいよ〜。かわいいかわいい」

「んっ!」


 詩音が小さく喘ぎ声を漏らしながら身をよじる。


「先輩、素肌にニットが擦れてくすぐったいです」


 その言葉を聞いて俺は、ずり下りるようにして詩音の胸に顔を埋めた。


「ひうっ!先輩、話聞いてました!?」

「聞いてたよ?でも、柔らかくて気持ちいいし」


 そう言って俺は、詩音の胸に沈めた顔をうりうりと左右に動かした。詩音が熱い息を漏らす。


「それに……くすぐったがってる詩音、色っぽくてかわいいしね」

「んんっ!先輩の馬鹿!」


 詩音が口を手で塞いで、声が漏れないようにする。俺は詩音の身体に顔を押し付けながら、滑り降りるようにして詩音の太ももに頭を置いた。それから、極ミニのワンピースから剥き出しになった詩音の滑らかな太ももに頬擦りする。


「だからっ!そこも!」


 詩音が抗議の声を上げるが、やがて諦めたのか黙って声を噛み殺すようになった。頬が熱を持つくらいに頬擦りした後、俺が動きを止めると、詩音が一度大きく息を吐いて、呆れたような声音で言った。


「先輩、ほんとうに膝枕が好きですね」


 それから


 パチン


 催眠を解く指パッチン。


「…………」


 俺は黙ったまま身体を起こして、詩音の正面の、手が届かないくらいの位置に正座した。


「どうしたんですか?先輩。そんなに真っ赤になっちゃって。今日は、そんなに大した催眠はかけてませんよ?」


 詩音に言われなくても、真っ赤になっていることくらいわかる。これで発情系の催眠がかけられていたならまだマシだった。催眠が解けて分かったことは、『今日俺は催眠をかけていない』ということだけだった。


「先輩の好みからして、この服装なら盛り上がってくれるだろうなとあたりをつけていたんですが、大当たりだったみたいですね」


 挑発的な笑みを浮かべながら、詩音はワンピースの裾をつまむ。


「それで先輩。膝枕の続き、しなくてもいいんですか?」

「…………」


 詩音の問いかけに、俺は黙ったまま目をそらす。詩音は呆れたようにため息をつきながら言った。


「まったく、私をいじめる時にはノリノリなのに、自分が気持ちよくなっていいってなると縮こまるんだから」


 それから詩音は太ももをぺちぺちと叩きながら俺に呼びかける。


「先輩、膝枕しますよ」


 その声色の中に、どうやら膝枕しないと収まりがつかないような『圧』を感じて、俺は躊躇いつつも詩音の太ももに、背中を詩音に向けて頭を置いた。


「もう、なんでそっち向きなんですか」


 詩音に咎められて、身体をビクッと震わせる。それから目をぎゅっとつむったまま寝返りを打った。


「はい、いいこいいこ。……先輩が好きなものを好きと言えるようになるまで、膝枕調教ですからね」


 そう言いながら、詩音の手が俺のもみあげ辺りを優しく撫でる。


「大好きな膝枕に、なでなで。気持ちいいですか?」

「……ん」

「ふふっ、——すりすりもしていいですよ?くすぐったいですけど、嫌じゃないですから」


 その言葉に、俺は詩音のお腹に額を押し付ける。


「甘えん坊さんですね」


 やわらかな声で詩音は言って、俺の後頭部を撫でる。心臓が握りつぶされるような感覚。俺は詩音に寄りかかるように身体を起こして、詩音を抱きしめた。


「すき。すき、すき」


 頬擦りしながら繰り返し囁く。それをするのを我慢できない、どれだけ押さえても溢れ出してしまう。


「先輩、私も好きですよ」


 笑いの混ざった声でそう言いながら詩音は俺の膝に乗って、抱きしめ返した。

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