第93話 生殺し催眠

 パァン


「展開が早い!!」


 催眠が解けて目を開けるなり、俺は毛布を引っ張りながら飛び上がるように身体を起こして叫んだ。


「せんぱいっ、毛布持ってかないでください!おっぱいが見えちゃいます!」


 そう抗議しながら同じく毛布を引き寄せる後輩を睨む。お互いに毛布を引っ張ったことで、むき出しの肩が触れ合っている。目を開けなくても、匂いと体温で分かっていた。催眠にかかっている間に、後輩の詩音と裸でひとつのベッドに入っていたのだ。


「詩音、ここからどうするつもりだ?もうカクヨムに書けないことしか無いような気がするんだが」

「それが、そうでも無いんですよね〜……」


 詩音が得意げな顔になって、意味深に言葉を切る。意味が分からずに俺が首を傾げると、詩音は俺の耳元に口を寄せて囁いた。


「今日は先輩に、R18なことができなくなる催眠をかけたんです。だから——たり、——たり、——たりみたいなことは、今の先輩はできなくなってるんです。これならカクヨムでも安心ですね?」


 目を丸くする俺を見て小さく笑うと、詩音は俺の太ももの上に向かい合うように座る。太ももから、柔らかくて丸い詩音のお尻の感触が直に伝わってくる。


「まあ、もし先輩が?どうしても?我慢できないなら?——可愛くおねだりできたら、この催眠を解いてあげますよ?」


 からかうような口ぶりで詩音がいう。


「誰がおねだりなんか——っ!」


 詩音の左手が毛布の下で動いて、俺は思わず言葉を切る。詩音が笑う。


「せんぱい、口ではなんと言っていても、身体は正直ですね?もう、今すぐにでもねじ込みたいと言わんばかりに、硬く熱くなっちゃってるじゃないですか」

「そっちからは触れるなんてズルだろ」

「ズルじゃありません。先輩はいま、私の術中なんですから。それに——」


 すました顔でそう言って、詩音はいたずらっぽく笑って続ける。


「先輩も私に触られて、気持ちいいんじゃないですか?」


 そう言って詩音は、身体を押し付けるようにぎゅっと抱きついてきた。


「っ〜〜!」

「先輩の大好きな詩音ちゃんの感触、存分に味わってください」


 詩音が身体を擦り付けるようにして上がってきて、唇に深くキスをする。


「先輩、キス、気持ちいいです」


 それから一度唇を離れて、熱い息の混じる声で耳元で囁く。


「先輩、私のおっぱい、大好きですよね?押し付けられるだけじゃなくて、思い切り揉みしだきたくないですか?」


 意識が誘導されて、胸板に押しつけられる柔らかさを否応なくはっきりと感じる。またキスが始まる。舌が絡んで、頭が真っ白になる。詩音が嬉しそうに笑う。


「ふふっ。先輩ってどれだけ冷たい態度を取っても、私のことが大・大・大好きですよね」

「なっ——」

「だって、こんな状況なのに、先輩の腕、私のことぎゅって優しく抱きしめてくれてるんですよ?」

「!?」


 無意識の行動を指摘されて目を丸くする。詩音が頬擦りする。


「先輩、私も大好きですよ」


 それから、またキス。キス、キス、キス。


「先輩、気づいてますか?先輩いま、とってもエッチな顔になっちゃってますよ。押し倒したくてたまらないのに、一生懸命我慢してる、そんなエッチな顔。ふふっ、先輩かわいい」

「っ〜〜!!」


 俺は詩音の後頭部に腕を回して、強く引き寄せて唇を重ねた。お互いの舌が深くまで入り込む。俺はぎゅっと閉じていたまぶたをゆっくりと開ける。


「はぁっ。先輩、激しいです……」


 詩音がうっとりと言う。


「……キスならできるんだな」


 俺は呟くと、もう一度詩音の顔を引き寄せて今度は頬にキスをする。


「ほっぺにキスなんて、なんか初々し——っ!」


 俺がキスの場所を耳たぶに変えて、詩音は息が詰まったように言葉を切る。


「先輩、そこはぁっ!」


 耳、首筋、鎖骨。このまま乳首に吸い付きたいくらいなのだけれど、催眠のせいで乳房に触れることができない。少し残念に思いながら、脇の辺りの乳房と胴体の境目を唇で撫でて、舌を這わせる。


「んっ!」


 詩音が小さく喘ぎ声を上げ、身体を震わせる。乳房のふもとの輪郭をなぞる。脇腹、あばら、お腹、おへそ、股関節。キスをしてキスをする。太ももにキスをする。膝を押して脚を押し広げて、内腿にもキスをする。それから、太ももと胴体の境目、普段は下着に隠れているくらいのところにキスをする。


「そんなとこキスしちゃだめぇ!」


 詩音が懇願するような声を上げる。でも、キスできる。だってここはR18な場所じゃないから。平らにした舌を押し付けて撫でる、甘噛みするように唇で揉む。それから、少しだけ顔を上げて、おへその下、まだ毛が生えない位置、赤ちゃんの部屋の真上に、顔を押し付けるように、淫紋を刻みつけるインキュバスのように、強くキスをした。


「っ〜〜!」


 パチン


 指パッチンの音に顔を上げると、詩音が荒く息をしながら涙目で俺を睨んでいた。俺はベッドの上に膝立ちになって、詩音を見下ろすようにして訊ねた。


「なんで自分から催眠を解いたの?」

「それはっ!先輩が——っ!」


 左手ですくいあげるように詩音の胸を優しく揉み、乳首を摘む。詩音の言葉が途切れる。腰が小さく浮く。俺は右手を詩音の肩に置いて、覆い被さるように詩音を押し倒した。


「こんな催眠をかけて、さんざん誘って焦らして、それで催眠を解いたら、どんなことをされるかくらい分かるよね?どうして解いたの?」


 俺の質問に、詩音はぷいっとそっぽを向いた。


「……先輩のばか」

「詩音のエッチ」

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