第145話 温め合う催眠
パァン
「先輩、寒いです」
「はぁ!?」
後輩の詩音に急にそう言われて、俺はのけぞった。
「寒いって、その……着込むとかで我慢できない?」
目を逸らしながら言う俺に、詩音は眉間に皺を寄せた。
「いまさら恥ずかしがることもなくないですか?先輩も早く脱いでください」
そう言って詩音がワイシャツのボタンを外し始める。ワイシャツとスカートを脱ぎ終わって下着姿になった詩音は、少しだけ硬直してから、俺に背中を向けてブラのホックを外した。遠目に見て、詩音の耳は少し赤くなっているように見えた。
(詩音だって恥ずかしいんじゃないか?)
そう思いながら、俺も鈍い動きでボタンを外す。そうこうしているうちに、詩音がそそくさとベッドに入って、掛け布団から顔だけ出して言った。
「ほら。先輩も早く入ってきてください」
急かされて、ためらいながらも裸になって、詩音と同じ掛け布団をかぶる。先に入っていた詩音の体温で、布団はかなり温かくなっていた。詩音の上に覆い被さるような姿勢になって、肌と肌をぴったりとくっつける。寒さを凌ぐ方法なんて、こんな古典的なやり方『以外にない』。
「先輩、これは全然いかがわしいことじゃありませんからね?分かってますか?」
俺の身体の下で詩音が言う。
「それくらい分かってるよ」
「ほんとうですか?……こんなに硬くなってるのに?」
そう言って詩音が布団の中で太ももを擦りつける。俺は思わず息を漏らす。
「なんで興奮してるんですか。先輩のえっち」
「仕方ないだろ。生理現象だから」
そう言いながら俺は、詩音に重なった身体の正面を擦るように動く。摩擦熱と筋肉の運動で、より暖かくするためだ。
「んんっ!」
詩音が短く喘ぐ。
「——そっちこそ、そんないやらしい声出して」
「し、仕方ないじゃないですか!先輩の身体が、敏感なところに擦れて——んっ!」
詩音がみじろぎしながらまた小さく喘ぐ。俺は、詩音の背中の下に手を入れて背中をさする。詩音は俺の脚に脚を絡み付かせて擦る。
「……」
心拍数が上がる。俺は黙ったまま、詩音の唇に唇を押し付けた。
「っはぁ!だから、エッチなことはしてないって言ってるじゃないですか!」
息継ぎに唇が離れたタイミングで、詩音が抗議の声を上げる。
「お願い。キスだけだから」
俺はそう言って、もう一度唇を重ねる。詩音は、少し眉間に皺を寄せながらも目をつぶって受け入れる。俺だって、詩音にその気がないことくらい分かっている。ただ裸で抱き合うのが、寒さを防ぐ一般的な方法だというだけだ。だから、背中をさすりながら詩音の身体を下っていった右手を尾てい骨の手前で折り返させる。
パチン
頭の後ろで指パッチンの音が響いた。俺は目を丸くする。この部屋には、エアコンもこたつもあることを思い出した。腕の中で詩音は、ふーっ、ふーっと抑えたような息をしている。
いつもなら、抗議したり、慌てふためいたり、揶揄ったりしているんじゃないかと思う。ただ今日は、詩音が『こんな催眠をかけてまで触れ合いたいと思っていた』ということがたまらなく愛しく感じて、俺は深い深いキスをしながら詩音を強く抱きしめた。
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