【コロナ番外編】 遠隔エッチ催眠

 『先輩。時事ネタに乗りましょう!』


「いいのかお前いま本編大変なことになってるんだけどなぁ!?」


 自分の部屋、ローテーブルの前に座って激しく突っ込んだ。部屋にいるのは俺一人だ。テーブルに乗ったラップトップパソコンのオンライン会議ソフトが後輩と繋がっている。後輩は自宅の自室で、可愛いルームウェアを着ている。


『いいんですよ。こういうのは鮮度と勢いが大事です。……と、いうわけで、今日は遠隔エッチ催眠に挑戦します。先輩が』


「勝手なこと言ってくれるなぁ!?」


『そういう催眠もあるんじゃないですか?まあ、無いならこのまま見せ合いに移行すればいいんですけど』


「……切るぞ」


 そう言ってマウスのカーソルを×に動かす。


『待ってください待ってください!休校で先輩が寂しがってるだろうなぁって企画してあげたのになんでそんな塩対応なんですか!!』

「…………」


 なんでそんな恩着せがましいんだ。無言でジト目を送っていると、後輩が気まずそうに固まり、それから観念したように言った。


『……わかりました。認めます。寂しがってるのは先輩じゃなくて私の方です。ずっと先輩に会えなくて、少しでも先輩を感じたくて……ダメですか?』


 はぁ、と俺はため息をつく。コロナウィルスによる休校期間、ステイホームのスローガンが掲げられている中で『濃厚接触』するわけにもいかないしな。正直に言えば寂しいのはこちらも同じだった。


「わかった」


 その返事に後輩は目を輝かせる。


「しかし、遠隔セックスか……。ああ、あれがあったな」

『本当にあるんですか!?』


 ガタッと後輩が立ち上がる。その反応に俺は眉をしかめた。


「あるんですかって、やるって言ったのはそっちだろ」

『まあ、そうなんですけど……期待はしてたけど確信はしてなかったというか』

「3段階くらい暗示を重ねるから、大掛かりな催眠になるぞ。じゃあ、まずはご存知深呼吸——」



 パァンッ


『……通話越しでも、この手を叩く音を聞くとなんか安心しますね。日常は変わらずここにある、みたいな』


「催眠にかけられながらその感想を持つのは多分世界で詩音だけだと思うぞ……」


『さておき、どんな催眠なんですか?遠隔エッチ催眠』


「さておくのか……まあいいや」


 俺は一回息を大きく吸うと、左手をカメラに移した。


「これなんだかわかるか?」


『わからないですけど、なぜかすごくドキドキします』


 少し息が上がった様子で後輩は言った。手の甲側をカメラに向け、下に向けたピースサインの間に親指挟んだ、独特なハンドサインのような手だ。画面を横切るように左右に動かすと、後輩の視線がそれを追う。よし、『左手から目が離せない』という暗示はしっかりかかっているみたいだ。


「こうすればわかるか?」


 そう言って、右手の人差し指の腹でVサインになっている左手の人差し指と中指を上下に擦る。


『ひゃぁっ!あんっ!先輩、なんで!』


 画面の向こうの後輩が、体をびくっと痙攣させながら嬌声をあげた。


「ラバーハンド錯覚の応用でな、詩音のそれと感覚を同期させてある」


『待ってください。じゃあその親指は……』


 お、察しがいいな。いいタイミングなので手と顔を画面に対して横向きにして、後輩によく見えるように親指にキスをした。


『っ〜〜〜!!』


 後輩が真っ赤になり声にならない嬌声をあげる。チュパ、チュパと音を立てて吸う。


『吸っちゃ、吸っちゃやぁ!』


 舌を突き出して円を描くように舐める。指にも這わせる。


『やぁんっ!やぁ!』

「……嫌ならやめようか?」

『しゅきれす!もっとひてくらはいっ!』


 既に呂律が回らないくらいにとろけて後輩はねだった。


「じゃあ、そろそろ中に入れようか」


 そう言って俺は右手をカメラに写す。


『…………はい』


 後輩は荒く息をしながら、熱っぽい期待に満ちた目で見つめた。指の間に右手の中指を差し込む。


『ああんっ!』


 ああ、こっちにも感覚のフィードバックがあればいいのに。後輩の身体が跳ねるのを感じたい。今度は左手の手のひら側をカメラに向けた。後輩にとっては『内側』が見えていることになる。右手の中指を前後に動かす。深く刺して円を描くように動かす。


『ナカっ!かき回しちゃやらぁ!へんにっ!頭変になるからぁっ!はあぁっ!あっ!あうっぐっ!』


 中をぐちゃぐちゃにかき回すように動かしていると、中指を曲げるようにして動かすと後輩がひときわ強く反応することに気づいた。弱点を見つけたようだ。何度も何度も繰り返し中指を曲げる。


『やぁっ!先輩やぁっ!ダメっ!先輩マジでダメです!やめっ!あんっ!先輩!あっ!やっ!先輩出ちゃうっ!ダメ!先輩!先輩っ!や!やぁっ!やめっ!や!やぁ!やあああ!!!!』


 ガクンッと後輩がテーブルに頭を突っ伏した。『目を離せない』という暗示より強く身体が動いたということか。肩がビクンビクンと動いている。


『エグっ、エグっ……先輩のばかぁ』


 顔を上げた後輩はしゃくりあげながら泣いていた。


『ばかぁ!サディスト!私あんなにやめてって言いましたよね!?ダメだって!!』

「す、すまん!てっきり『嫌よ嫌よも好きのうち』の類いかと……」


 俺は焦った。いったい何があったというのか。


『先輩がやめてくれないから、し、潮吹いちゃったじゃないですか!下脱いでないのに!!どうするんですかこれ、なんて親に説明すればいいんですか!』


 状況を把握し、サーッと血の気が引いた。たしかにこれはまずい。


「ごめん!今度あった時お詫びはちゃんとするから!」

『約束ですからね?ヒック。もうパンツもルームウェアもビショビショ……』


 べそをかく後輩を見ながら、俺は興奮を抑えられなかった。この通話だけで3回は抜けると思った。



 …………


「先輩。この間のまたやってください。え?今日は大丈夫なのかって?はい。今回は対策バッチリです!もう下は脱いでますし、バスタオルもしいてますから!」

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