第128話 好き好き催眠2

 パァン


「……先輩?」


 トランス状態から目を覚ました詩音が首を傾げる。『今日かけた催眠はどんなものなのか』という意味合いだろう。俺は口元に笑みを浮かべて、詩音の後ろに回る。それから後ろから抱きしめながら、耳元で囁いた。


「詩音、好きだよ」


 詩音はビクッと身体を震わせて、赤面しながら訝しげな視線を俺に向ける。


「なんですか?いきなり。先輩が私を好きなことくらい、改めて言われなくても知ってますけど」


 その言葉に俺は小さく笑って、耳を唇がかすめるくらいの距離で囁く。


「好きだよ、好き」


 詩音が耳まで真っ赤にしながら俯く。それから詩音が、何か戸惑ったような声で俺に訊ねる。


「あ、あの、先輩。何か、変なのですが」


 その言葉に、俺はにっこりと笑って答える。


「『好き』って言葉を聞くたびに、どんどんエッチな気分になる催眠。今は3回……いや、4回かな?さぁ、詩音は何回耐えられる?」

「なんでそんな催眠かけてるんですか!?」


 そう言って詩音は勢いよく両手で耳を塞いだ。


「あははは!でも、そんなに無防備な姿勢で大丈夫なのかな?」


 そう言いながら俺は、首に腕を回したまま詩音の前に回る。それから、詩音の胸の中央に顔を埋めて頬擦りをした。ワイシャツ越しとはいえ、柔らかく温かい感触が伝わってくる。


「っ〜〜〜!!」


 詩音はしばらく黙って震えていたけれど、ついに両手で俺の額を押し返すようにしながら叫んだ。


「離れてください!先輩のエッチ!」


 俺は背中と首にぐっと力を込めて抵抗しながら詩音に言う。


「そんなこと言って、もうだいぶ『そういう気分』になってるんじゃないの?だからわざわざ、そんな隙だらけなポーズして誘ってるんでしょ」

「ちがっ!そんなわけ無いじゃないですか!」


 気色ばむ詩音に俺は反論を返す。


「今だってそうだよね。俺を押し返すなら、わざわざ手を使わなくても足でもいいはずなのに、耳を塞いでた手を使ってるってことは……ほんとはもっと『好き好き』って言って欲しいんだよね?」

「またっ……!」


 キーワードが重ねがけされて詩音が動揺する。その隙に俺は詩音を床に押し倒して両手を押さえつけた。そのまま耳元に口を寄せて囁く。


「好き。好きだよ」

「やめ、やめてください!!」


 詩音は顔を背けながらそう言うが、押さえつけている手には全く力が入っていない。


「なんで?俺が詩音を好きなのは、言われなくても分かってるんだよね?なら改めて『好き』って言われても同じじゃない?」

「へん、変になっちゃいます!」


 顔を真っ赤にしながらそう言う詩音が可愛くて、俺は小さく笑いながら言った。


「いいよ。好きなだけ変になって。エッチな詩音も『好き』だから」

「やぁん!だめです!」


 詩音の息が荒くなる。俺は一度大きく息を吸い込んでから詩音に言う。


「……ほんとうに嫌?やめてほしい?それなら催眠を解いて止めるけど」


 その言葉に、詩音はビクッと震えてから、目を逸らしたまま言った。


「だめ……です……やめちゃダメ……」


 その言葉に俺は口角を上げると——


 パチン


 詩音の左手を押さえていた右手で、詩音の耳元で指パッチンをした。詩音の催眠が解ける。


「えっと……10回かな。エッチな詩音にしてはよく我慢できた方だと思うよ」


 笑いながらそう言って、俺は身体を起こそうとする。が、背中に詩音の腕が回っていて起き上がることが出来なかった。


「詩音???」

「だから、やめちゃダメって言ってるじゃないですか」


 そう言って詩音は俺の首をぐっと引き寄せて、唇を強く押し付けるようにキスをした。腰には詩音の脚が巻きつくようにしがみついている。


「ぷぁっ!詩音?発情する催眠はもう解いたけど?」


 息継ぎに唇が離れた隙をみて、俺は詩音に訊ねる。詩音はとろけた顔で、眉を吊り上げながら言った。


「こんなにしつこく煽っておいて、催眠を解いたくらいで治まるわけ無いじゃないですか。ちゃんと、最後までしてください」


 そう言って詩音はまた舌を絡める。


「ちゃんと好き好きって言ってくださいね?好き好きって言いながら“すきすき”するの、すっごく好きです」


 甘えたような声でそう言われて、こっちの方が変になるかと思った。


 ちなみに、10回というのは俺の数え間違いである。

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