第129話 寝たふり催眠3
パァン
「…………!」
俺は黙ったまま叫ぶのを堪えた。目の前では詩音が、ベッドの上で横向きに寝て目を閉じている。それも一糸纏わぬ姿で。深呼吸して息を整えながら、詩音の寝姿を頭から脚まで視線でひと撫でする。女性らしい柔らかな曲線と、色白ながらも血色の良い肌。こんなに無防備でも、まじまじと見つめるようなことはしない。心臓に負荷がかかりすぎるからだ。
「さて……」
鎖骨より下に視線が行かないよう、顔を強い意志で押さえつけながら、俺は右手で詩音の手と指を絡ませるようにして手を握った。今日は、俺は詩音に眠くなる催眠をかけた。それで、詩音は裸で昼寝をしている間、俺にずっと手を握っていて欲しいと言っていたはず。
(……そういえば、俺も裸だな)
いつ、どうして脱いだのだっけ?
「ふふふっ、先輩のえっち……」
そんな事を考えている時に、詩音が突然そんな事を言うものだから、疑問は頭から吹き飛んでしまった。この寝ぼけたような口調からすると、どうやら寝言のようだけれど。……男の前でこんな格好ですやすや寝ている詩音とどっちがエッチだという話だ。
「いいですよ、先輩。いっぱいチューしましょうね……」
そう言って詩音はむにゃむにゃと口を動かす。
「こいついつもこんな夢ばっか見てないか……?」
俺は空いている左手で額を押さえながら呟いた。顔が焼けるように熱い。
「んんっ!先輩、くすぐったいです……ほんとうに先輩は、おっぱいが大好きですね……」
そんな俺を他所に、詩音は楽しげに寝言を続ける。詩音の言葉に釣られて、視線が胸へと引き寄せられる。詩音が身体を震わすのに合わせて、先端が小さく揺れる。
「ふふっ、赤ちゃんみたいで可愛い……先輩、いいこいいこ……」
例えば今詩音の胸にむしゃぶりついたとしても、夢の中の出来事と区別がつかないんじゃないか?というような考えが頭をよぎって、口が半開きになる。俺はブルブルと頭を振って気を取り直す。いくら詩音が自分から裸になって寝ているとは言っても、夢の中で俺とエッチなことをする寝言を言い続けていたとしても、それは実際に俺がそれをすることを許しているということでは無いのだ。……ほんとうか?
「ふふっ、先輩、もう我慢できないんですか……?いいですよ……」
詩音は寝言でそう言いながら、仰向けになるように寝返りを打った。考えていた内容が内容だけに飛び上がりそうになる。それに、さっきまでに輪をかけて無防備だ。秘すべきところが残らず露わになっている。乳房が重力に負けて柔らかく潰れている。
「先輩……そのまま手を繋いでいてください……んっ!」
これは、夢の中の俺にかけられた言葉だ。詩音の口から苦しげな息が漏れて、夢の中の俺が詩音と『繋がった』のだろうということが分かる。
「んんっ!先輩、いいです!気持ちいいっ!すきっ!」
詩音が激しく喘ぎながら身体をビクビクと震わせる。ただ手を繋いでいるだけなのに、俺の息も荒くなっていく。こっちはこんなに我慢してるのに、夢の中の俺は好き勝手しやがって……と、嫉妬にも似た奇妙な感覚を覚える。
「あんっ!先輩っ!あぁっ!っ〜〜〜!!!」
詩音は腰をひときわ大きく突き上げた後、ぐったりと脱力した。俺はまだ荒く息をする。耳の中がうるさいくらい心臓が激しく動いている。下腹部のあたりで暗い欲望がぐつぐつと煮えるのを感じる。そのとき——
「なんちゃって」
パチン
詩音の右手が指パッチンを鳴らして、詩音がいたずらっぽく笑いながら言った。
「先輩、私の迫真の演技にドキドキしっぱなしでしたね。先輩のドキドキ、握った手からずっと感じてましたよ」
鳩尾を殴られるような衝撃が突き抜けて、俺は言葉を無くした。そうだ、今日催眠をかけたのは俺じゃない、詩音だ。そんな俺を見て、詩音は楽しげに笑いながら腕を広げる。
「先輩、あんなにドキドキしてたのに、エッチなことを我慢できたご褒美です。いいこいいこしてあげますから、来てください」
『誰がいいこいいこなんか!』と突っぱねたかった。普段の俺ならそうしていただろう。けれど、あんな姿を見せられた今、俺の我慢は限界で、詩音に誘われるままに詩音の胸に顔を埋めた。
「ふふふっ、いいこ、いいこです。——さっきまで我慢してたこと、ぜーんぶ、していいですからね?」
そう言って詩音が俺の頭を撫でる。ああもう、本当に策士だ。こんなことを言われて我慢なんてできない。俺は詩音に覆い被さる。まずは、いっぱいチューするところから——
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