第105話 いいなり催眠

 パァン


「まどろっこしい話は抜きにしましょう。これで先輩は、私のいいなりです」

「……はい」


 夢現の中で、俺は返事をした。


「先輩も、それでいいですよね?だって、私のいうことを聞いていれば、とっても気持ちよくなれるって、分かってますもんね?」


 そう言って、この催眠の主である詩音が俺の頭を撫でた。


「……はい」


 俺は虚ろに返事をする。詩音に触れられている部分から幸せが流れ込んで、頬が緩むのを抑えられない。


「では先輩。お洋服、脱ぎ脱ぎしましょうか」

「……はい、脱ぎます」


 保母さんのような口調で詩音に言われて、俺は目を半開きにしたままで立ち上がる。手足は重くて力が入らないけれど、まるでマリオネットのように勝手に動く。はらり、とワイシャツが足元に落ちる。腰を曲げてズボンを下ろして、それから全部脱ぐ。恥ずかしい?恥ずかしい……?分からない。たぶん恥ずかしくない。身体がぽかぽか温かくなって、気持ちいいことの予感がする。


「ふふっ」


 詩音が小さく笑う声が聞こえる。


「先輩……元気ですね?いえ、いいことです」


 少しからかうような響きで詩音が言った。背筋をぞくぞくとした快感が走る。もっと詩音の声が聴きたい。


「じゃあ先輩、ベッドに行きましょうか」


 そう言って詩音が、だらりと下がった俺の両手を引いてベッドに導く。少しダンスのようだ。ゆっくりと、引きずりこむように、詩音がベッドに仰向けになる。俺はその上に覆いかぶさる。


「先輩、ぎゅーってしてください」


 詩音に言われるがままに、俺は詩音の背中に腕を回して抱きしめる。それが俺がしたいことだからだ。肌と肌が触れ合って気持ちいい。身体に押しつけられる柔らかさが気持ちいい。俺に抱きしめられながら、詩音が腕を伸ばして頭を撫でる。気持ちいい。幸せ。頭が真っ白になる。


「先輩、ほんとうに頭を撫でられるのがすきですね。あまえんぼさんですね」


 少し笑いながら詩音がいう。それから、頭を撫でていた手が首筋をなぞって、左手と共に両頬を覆う。


「先輩、キスしてください」


 そう言って詩音が目をつぶる。俺はゆっくりと、けれど迷うことなく詩音の唇に唇を重ねた。


「んっ」


 小さく喘ぎながら、詩音が唇を弄る。舌先が触れ合って、絡み合う。深い、深いところまで。


「んっ。ふふっ、気持ちいいですよ。先輩、いい子いい子」


 唇が離れると、詩音は小さく笑ってまた俺の頭を撫でる。それから俺の頭を布団の中にぐっと押し下げるようにしながら言う。


「次は、おっぱい……してください」


 その言葉に、俺は口を大きく開けて詩音の胸をくわえる。歯を立てないように、唇で柔らかく。


「あんっ!」


 詩音がビクッと身体を震わせる。俺は詩音の乳首を舌の広い面で撫でて、唇でつまむ。もう片方の胸をすくいあげるように揉む。


「ああっ!先輩、きもちいいっ!」


 詩音が喘ぎながら俺の身体の下で悶える。気持ちいいのはこっちの方だ。唇が気持ちいい、手が気持ちいい、耳が気持ちいい。詩音が身体をくねらせるたびに肌が擦れて、頭が真っ白になる。


「はぁ……はぁ……」


 しばらく経つと、詩音はもうすっかりとろけきった顔で荒く息をしていた。俺は真上から詩音を見つめる。


「……先輩、次は何をすればいいか、わかりますか?」


 詩音の問いに、俺はうなずく。詩音が微笑みを浮かべる。


「じゃあ——」


 パチン


 耳元で指パッチンが響いた。催眠が解ける、頭が目覚める、身体が自由になる。そんな俺に、詩音は挑発的な笑みを浮かべて言った。


「いいなりになっているだけで、最後まで気持ちよくなれると思いました?残念、私は先輩をそんなに甘やかしたりしませんよ。さあ、先輩——ひゃあっ!」


 俺は詩音を押しつぶすように抱きしめた。それからこめかみにキスをしながら、詩音の耳元で囁く。


「我慢とか、できない。……詩音、いい?」

「ひゃ、は、はい……」

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