第57話 くすぐり催眠
パァン
手を叩く音で、後輩の詩音はトランス状態から目を覚ました。
「……なるほど。そういうわけですか」
首だけ小さく動かして辺りを見回した詩音は、察したとばかりにそうつぶやいて蔑んだ目で俺を見た。
「先輩、こうやって私を催眠で無防備な体勢にした上で、私のおっぱいを心ゆくまで堪能するつもりですね?先輩の変態」
たしかに、今日かけた催眠のせいで詩音は防御力ゼロなポーズになっている。具体的に言うと、両手を頭の上で組んだ状態だ。アメリカ風のホールドアップとでも言うべきか。その上、今日の詩音はいつもより薄着なキャミソール姿だ。ただ、詩音の推測には一部誤解が含まれていた。
「いや、胸ではないな」
俺が淡々と訂正すると、詩音は肩をビクッと震わせて目を逸らした。
「……その、えっと、おっぱいの方が良くないですか?先輩の大好きなおっぱいがこんなに無防備に目の前にあるんですよ?」
なんだ。ぜんぶ察した上でとぼけてたのか。俺は頭をかきながらこたえる。
「胸が好きってのはいまさら否定しないけどさ。せっかくこんな催眠をかけたのだし、今日は詩音をくすぐり倒す方向でいきたいと思います」
その言葉を聞いた詩音は引き攣った顔になる。
「……え〜。くすぐりなんて、全然エッチじゃないじゃないですか。連載の趣旨に反しますよ」
「いやいや、かなりエッチじゃないかと思うよ」
そう言いながら、手をわきわきと動かして詩音に近づいていく。そんな俺を見た詩音が、目をぎゅっとつむり上半身をくねくねと動かして暴れる。
「まっ!待ってくださいやめてください先輩!」
その言葉に、詩音の肌に触れる直前まで近づけていた両手を止めた。10秒と少しの沈黙。恐る恐るといった様子でゆっくりと目を開けた詩音が俺に尋ねた。
「……あの、先輩。何してるんですか?」
「いや、詩音が嫌がるなら止めようかなって」
「なんでですか!!やるんなら早くやってください!どうせ先輩がくすぐらないと今回の話にオチがつかないんですから!」
「でも、詩音かなり嫌そうだし……」
「分かりました!腹括りましたからとっとと済ませてください!先輩のバカ!」
そう言われて、俺は躊躇いながらも詩音の腋に指先を近づけていく。詩音がぎゅっと目をつぶって、歯を食いしばる。そして、人差し指と中指の先が詩音の腋に優しく触れる。
「んんっ!あっ!」
艶めいた声が詩音の口から漏れ、体をよじって悶える。ほら、十分にエッチじゃないか。2回、3回と指先で詩音の腋を擦る。ピアノを弾くかのように人差し指から順に動かしていく。
「あっ!あぁん!せんぱい!ダメぇ!やっぱりダメです!」
身悶えしながら詩音が叫ぶ。俺はくすぐる手を止めて、もう目尻に涙を溜めている詩音を胸に抱いて頭を撫でた。詩音が俺の腕の中で荒い息をする。
「はぁ、はぁ……。すみません。私、本当に昔からくすぐりには弱くて」
「いいんだよ。わがまま言って無理させちゃってごめんね。……昔って?」
「はい?小学校……低学年くらいですかね、最後にくすぐられたのは」
「誰から?」
「いやまあ、その時の遊び友達ですね」
「男?女?」
俺のその質問に詩音は目を丸くして、小さく吹き出した。
「やだなぁ。そのくらいの歳で男女の区別なんて無いじゃないですか。……先輩?なんで黙って手をまた……。んっ!だから、くすぐりはダメだって、あんっ!先輩っ!あは、あははは!!先輩ダメぇ!ひゃあん!あぁっ!あははははは!息がっ!せんぱいっ!やんっ!くはぁ!舐めちゃだめぇ!ああああぁぁぁ——」
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