第68話 尻叩き催眠
パァン
「はぁ〜〜〜……」
俺は額を左手で押さえながら大きなため息をついた。
「いくら恋人同士だからといって、やっていいことと悪いことがあるだろ。催眠で無理矢理——を——で——せながら——に———んで——を——とか……。人の尊厳というものを考えたことはあるのか?自力で催眠を解けたからよかったものの——」
怒りで小さく震えながら、カクヨムには到底書けないような後輩の詩音の所業を語る。詩音は、しゅんとした様子で俯いている。
「……ごめんなさい」
詩音が消え入りそうな声で言った。その姿に、俺はもう一度ため息をつく。
「——悪いことしたら、どうすればいいか分かってるな?」
「……はい、その……お仕置き、ですよね」
「分かってるんならこっちに来るんだ」
そう言って俺はふとももをぽんぽんと叩いた。詩音は躊躇いがちに小さくうなずくと、俺の前を横切るような形で、お腹をふとももの上に置いた。左側に頭、右側にお尻がある。なんとなく、やる気のない猫を連想するような姿だ。
「多分、10回は必要だよね。……スカート自分でめくれる?」
「はい……」
俺の言葉に詩音は震える声で答えて、背中から腕を回してスカートをめくりあげる。ストライプのショーツに包まれた詩音の丸いお尻が露わになった。俺はそれをしっかりと見据えて、肘を90度に曲げた右手を高く振り上げると、詩音のお尻目掛けて振り下ろした。パシィィンと音が響く。
「〜っ!」
詩音が声を噛み殺す。詩音の耳が痛みと羞恥に赤く染まる。俺は左手で詩音の背中を押さえながら、もう一度右手を振りかぶり、振り下ろす。パシィィン。手首のスナップを柔らかく使って。パシィィン。痛みそのものは重要ではない。それが悪いことだと分からせる必要があるのだ。だから指を広げて圧力を分散させながら、打撃よりも衝撃が伝わるように。パシィィン。良い音になるように。パシィィン。
「んあぁっ!」
堪えきれないように詩音が声を上げる。10回叩き終わった時には、詩音は荒く息をしていた。右手のひらがじんじんと痺れている。
「はぁ……はぁん……はぁっ」
その息遣いの中に、痛みによるもの以外のものを感じとってゾクリとしたものが走った。心臓が高鳴るのを感じながら、詩音の耳元に口を寄せた。
「……もしかして、お尻叩かれて気持ちよくなっちゃった?」
その言葉に、詩音は肩をビクッと震わせる。それから、消え入りそうな涙声で言った。
「……はい」
「お仕置きで感じちゃうなんて、『悪い子』だね」
俺の言葉に、詩音の息が何かを期待するように荒さを増す。
「はい。私は悪い子です。だから——」
「同じお仕置きしても気持ちよくなっちゃうだけだよね?」
俺がそういうと、詩音はぎゅっと身をすくませる。俺は息を耳に吹き込むように囁いた。
「詩音なら、どうすればいいか分かるよね?」
詩音は、ぎゅっと目をつぶってうなずいて、自分の腰に手を伸ばした。そうして、指に引っ掛けるようにしてショーツを引き下ろす。詩音のお尻が露わになる。白くて丸いそれは、叩かれたことによって頬を染めたように赤くなっていた。
「——先輩、もっと、お仕置きしてください」
詩音の言葉に、俺は大きく息を吸い込んだ。そして右手を振りかぶって、振り下ろす。パシィィィィン!
「はぁんっ!」
詩音が背中を反らせながら喘ぐ。明らかに艶めいた声で。俺は繰り返し叩く。痛みと快楽が混ざっていく。痛みが快楽になっていく。
10回叩き終わって、俺が詩音のお尻を撫でていると、詩音の身体が液体じみた動きで俺の膝から溢れ落ちた。床に仰向けになった詩音は、目を潤ませながら紅潮した顔で荒く息をしている。脚はだらしなく広げられ、めくれ上がったスカートも足先に引っかかったパンツもその役目を果たしていない。
「先輩、お仕置き、ありがとうございます」
詩音が紡いだその言葉に、最後に残っていた理性は弾け飛んで、俺は詩音に覆い被さるようにして舌をねじ込んだ。
——
パチン
「う゛ううぅぅぅぅ!!」
俺はベッドで膝を抱えながら、両手で顔を覆って自己嫌悪のうめきをあげた。隣で詩音が裸の身体をぴったりとくっつけてきている。
「……隙を、生じぬ、二段構え」
「ちょっとMに目覚めてしまったかもしれません。先輩にされるなら、痛いことでも気持ちいいと感じてしまうのかも」
悪びれずにそう言う詩音を横目でにらむ。
「だからそんなに気にしないでくださいよ。合意ですよ合意」
「でも、あんなに真っ赤になるまで……。いくら催眠にかかっていたとはいえ」
詩音に催眠をかけられてなければ『お仕置きに尻を叩く』なんて発想しなかったと思うし、結果としてなんか自分の中に尻叩きに対するこだわりのようなものがあることが分かってしまったのもひどく嫌だった。
「次やったらさすがに怒るから」
「お?先輩、怒ったら何するんですか?どんな『お仕置き』を?」
挑発するように返されて言葉に詰まる。俺は10秒くらい考えてから言った。
「ぎゅっと抱きしめて——」
「抱きしめて?」
「背筋とか脇腹とかをずっとさわさわする。2時間くらい」
俺がそう言うと、詩音は笑いを堪えるように口を手で押さえながら言った。
「それは怖いですね。頭が変になっちゃいそうです」
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