第67話 パンツ催眠

 パァンッ!


「……?」


 ゆっくりと目を開けて、首を傾げる。あれ?部屋に俺しかいない。確か、いつもみたいに後輩の詩音に催眠術をかけられていたはずなのに。


「帰ったのかな?」


 口に出すとそんな気がしてきた。部屋を見渡しても誰もいない。と、ベッドの上に何か違和感を覚えて視線が止まった。目を凝らして見ながら立ち上がる。白い、ハンカチくらいの大きさの布。近づいて確かめると、それはまさしく女性モノのパンツだった。


「ナンデ!?パンツナンデ!?」


 思わず叫びながら一歩飛び退く。俺の部屋に女性モノのパンツがあるということは、それは詩音の物以外に考えられない。


「忘れて帰った……?」


 あれで結構ドジっ子なところがあるからな。……ってあり得ないだろうそれは!!そもそも今日はまだパンツなんて脱がせた覚えがないし!慎重ににじりよる。女子のパンツなんて、それこそ爆弾級の危険物なのだから。半身になって顔を背けながら、左手の指二本で軽く押さえるように触れる。


「まだ温かい」


 指先にほのかに残った体温と湿度が伝わってくる。つまり、脱ぎたて。俺はもう一度睨むような目つきで部屋中を慎重に見渡す。誰もいない。誰も。俺は一度大きく深呼吸をして、ポケットからスマートフォンを取り出す。両手で持ってカメラモードを起動して、両肘をベッドに突いてスマホを構える。スマホの画面にパンツを収めたまま立ち上がる。パンツが少し引きの構図になる。画面を注視したまま、ゆっくりと後ろに下がる。画面には『パンツ』というより『パンツのある光景』のようなものが写っている。そして最後に、部屋の隅の壁に背中をぶつけるような勢いで大きく一歩下がった!


「ぐえっ!」


 背中は壁よりも柔らかいものにぶつかり、カエルが潰れるような声が聞こえた。それが怯んでいるうちに俺は身体を翻して、両手で抱きしめて逃げられないように捕まえる。もう暗示は崩れていて、腕の中に詩音がいることは俺にもわかった。


「なんで分かったんですか?気付かれないように催眠をかけたのに」


 不服そうに頬を膨らます詩音に俺はいう。


「部屋を見渡して『何があるか分からないところ』を探した。催眠にかかってることに気づかなければ『何があるか分からないところ』なんて脳は無視してしまうけど、『何か分からないところがある』と認識した上で探せば、詩音自体は認識できなくても『何があるか分からないところ』には気づくことができる。ちょうど、意図的に目を動かせば盲点がどこにあるかが分かるみたいにね。分かった?」

「いや、分からないですよ」

「まあとにかく、今回は俺の勝ちってこと。俺を催眠でハメようなんて、まだ少し早かったんじゃないかな?」


 まだ不服そうに顔を背ける詩音に、俺は抱きしめる力を強くして耳元で囁く。


「脱ぎたてホカホカパンツなんて分かりやすいエサに釣られると思ったクマ?」

「いや、それ多分釣られるヤツですよね」

「おおかた、詩音のパンツを『実使用』してる俺の痴態をじっくり鑑賞してやろうとでも思ってたんだろ」

「そんなことないです。あわよくば撮影しようと思ってました」

「なお悪いわ!」


 悪びれない詩音に俺はツッコミを入れる。まったく、詩音は何を余裕ぶってるんだか。


「……そのエサは、諸刃の剣だと思わなかったの?」

「?」


 分かっていないようで詩音は首を傾げる。俺は小さく笑って、腰に回していた右手を詩音のふとももの裏に動かして、脚に沿ってスカートの中の小尻まで撫で上げた。詩音の身体が跳ねる。


「詩音のここ、こんなに無防備になってるよ?」

「先輩ッ……!ゃんッ……」


 抗議する詩音の唇をキスで塞ぐ。右手で優しく撫で上げて、もみしだいて、割れ目と、神経が密集してる場所を指でなぞる。その度に、詩音の身体はビクン、ビクンと震えた。


 ——


「なあ、詩音」


 ふと思いついたことがあって、パンツを履きかけている詩音に呼びかける。詩音はムッとしたように眉間に皺を寄せて返事をした。


「なんですか?」

「パンツといえば、よく漫画とかで『パンツを嗅ぐ』ってシーンがあるけど、あれって……どうなんだろうか?」

「いや、どうってなんですか」

「パンツ嗅いで何か面白いのかな?布だよ?まあ、詩音の匂いは俺も好きだけど……パンツには匂いが強く残るの?……嗅いでみてもいい?」

「駄目に!決まってるじゃないですか!」

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