第20話 プレイヤー催眠
「詩音、ジャンケンをしよう」
我ながら唐突なその言葉に、詩音は少し目を丸くしたけれど
「いいでしょう、受けて立ちます」
そう言って右手を引いて構えた。
「いくよ。最初はグー ジャンケン」
ポン。詩音がパーで俺がチョキだった。
「よし」
俺は小さくガッツポーズをした。べつにジャンケンに勝ったことが嬉しいのではなく、どうやらうまく催眠にかかっていることが確認できたことに対するガッツポーズだ。
今日俺がかけた催眠は、『プレイヤー催眠』とでも呼ぼうか、『どんなゲームの挑戦でも、必ず受けて立ってしまう』という催眠だ。この催眠を使えば、どんな理不尽でエッチなゲームでもやらせることができる。俺はスクールバックの中を探って、この時のためにコンビニで用意した箱を取り出した。
「つぎは、ポッキーゲームで勝負だ」
詩音がジト目をする。
「先輩、下心まるみえですよ。まあ、負けませんけど」
詩音の返答を聞いて、俺は箱を開ける。銀の袋をピリッと開けて、一本のチョコがついてない側をくわえた。
「ほは、ほっひふはへへ(ほら、そっちくわえて)」
「…………」
詩音はスッとスマホを取り出した。シャッター音が響く。
「なんで撮った!?」
反射的にポッキーを吹き飛ばしながら聞く。
「だって、先輩おもしろ可愛いんですもん。これあとひと月くらい笑えますよ」
「理由になってない!」
「待ち受けにしていいですか?」
「ダメに決まってるだろう!?」
そう叫んだが、詩音は真に受けていないようだった。やれやれ、あとでどうにか消させないと。ため息をつきながらポッキーを改めてくわえる。
「じゃあ、行きますね」
そう言って詩音はチョコが付いている方の端をくわえた。かりっという前歯がプレッツェルを砕く音がする。かりかりかりかり、少しずつ詩音の顔が近づいてくる。恋人同士とはいえ、こんな至近距離でまじまじと見つめ合うのは滅多にない。鼓動が早くなるのを感じる。このゲーム、俺に負けはない。なぜならポッキーゲームというのは、キスをせずにギリギリまで食べ進めるチキンレース。そして俺は、詩音とキスすることになんの抵抗もないからだ!こちらがアクセルを踏み抜いている以上、先に止まるのは詩音だ。近づく。あと3センチ、1センチ、1ミリ。柔らかい感触が唇に触れた。え?戸惑っていると詩音の温かく湿った舌が俺の唇を押し分けて中に入ってきた。そして、噛み砕いたポッキーを拭いとるように口の中で動き回る。
「!?!?」
「はい、私の勝ちです」
唇を離した詩音がドヤ顔でそう宣言した。
「なんで…そうなる」
白く飛びかけた頭で俺は抗議する。
「私の方がたくさん食べられたので、私の勝ちです」
そんなルールだったか。そんなルールだったか?ま、まあいい。つぎこそ本命だ。
「じゃ、じゃあ今度は野球拳で勝負だ!」
野球拳というのは、平たく言えば脱衣ジャンケンのことだ。
「いいでしょう、受けて立ちますよ」
余裕を滲ませながら詩音は言った。
「どうして……」
俺は力なく言った。俺は、ほぼストレートで負けて全裸に剥かれて局部を両手で隠していた。
「それはこっちが聞きたいくらいです」
詩音が呆れた声で言う。
「先輩、私に催眠かけてますよね?てっきり、『チョキは出せない催眠』でもかけて必勝にしているのかと思ったんですが」
そんなことはしていない。
「だって、ずるでしょそれは」
「ほんとにそれが理由ですか?」
含みのある声で詩音が言う。それから、肩に手を添えて耳元で囁く。
「ほんとうは、こんな風に惨めに負けたかったんじゃないですか?」
「なっ!?」
「だって、そうですよね?先輩こんなに惨敗してるのに、興奮してるじゃないですか。こんな格好じゃ隠せませんよ?」
耳に息がかかり身体がビクッと震えてしまう。
「手、どけてください」
「それは……」
「どうせ先っぽはみ出してるんだからいいじゃないですか。敗者に選択権があると思ってるんですか?」
俺はきゅっと目を瞑って手をどけた。
「恥ずかしがってる先輩、可愛いです。もっと見せてください」
そう言って詩音が正面に立つ。
「脚、開いてください」
全身の血液が沸騰するのを感じながら、俺は脚をM字に開いた。
「いいですよ。たくましくて、男らしくて、かっこいいですよ」
詩音がそう言うと、部屋にシャッター音が響いた。
「だからなんで撮るんだよ!!」
「だって、先輩があまりに惨め可愛いんですもん。待ち受けにしていいですか?」
「ダメだからな!!!」
トホホ、もうエッチなゲームはこりごりだよ。
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