第142話 ハグ催眠2

 パァン


 頭の後ろで手を叩く音がする。


「先輩、起きましたか?これで先輩は、催眠を解かないと私を離せませんよ?さあ——」


 詩音が言い終わる前に、詩音の背中に回されている俺の腕にぎゅっと力を入れて、顔を押し付けた。


「せ、先輩!?」


 詩音が慌てたように両手をばたつかせる。ベッドの上、詩音は俺の太ももの上に乗って、向かい合って抱き合うような体勢。さっきの詩音の言葉と身体の感覚からして、どうやら今日の催眠は『ハグして離せなくなる催眠』のようだ。


「詩音も、ぎゅってして?」


 唇で耳をかすめながら、詩音の耳元で囁く。詩音がぞくぞくっと身体を震わせて、耳を真っ赤にしながら俺の背中に腕を回す。


「ん。きもちい」


 俺は詩音の頬に唇を押し付けながら言った。それから、身体に押し付けられた詩音の柔らかな感触と体温を味わう。両手で背中をまさぐる。耳に、首筋にキスをする。それから、唇。唇同士を重ね合わせて、舌を激しく絡ませる。


「先輩……」


 息継ぎのために唇を離すと、詩音が切なげな声を漏らした。俺は詩音を引きずりこむようにして背中からベッドに倒れた。詩音の背中に回った手で、頭を撫でながら俺は言った。


「詩音、いいよ」


 ——


 パチン


「……あの、先輩」


 少し恥ずかしそうに顔を伏せて、ワイシャツのボタンをとめながら詩音が俺に呼びかけた。


「なに?」

「なんか、今日先輩陥落するの早くなかったですか?」

「ん〜……」


 その言葉に俺は少し考えてから答えた。


「詩音は『誘惑に勝つ唯一の方法』って知ってる?」

「誘惑に勝つ唯一の方法?」


 首を傾げる詩音に、俺は一回息をついてから言った。


「『誘惑に勝つ唯一の方法は、誘惑に屈すること』」

「…………はぁ」


 呆気に取られたような顔で気のない返事をする詩音に、俺は小さく笑って言った。


「それに……予想外に反撃されて慌てる詩音は可愛いしね」

「なっ!?何を勝った感じの雰囲気を出してるんですか!!今日は私が瞬殺したんです!!」

「うんうん、そうだね。とっても気持ちよくて幸せで、全然我慢なんてできなかったなぁ〜」

「だからぁ!そうやってまるで大人の対応してますよ〜って雰囲気出さないでくださいって——」

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