第136話 足裏催眠

 パァン


「今日の催眠は——っと、説明するまでもないようですね。そんな物欲しそうな顔しちゃって」


 手を叩いて俺をトランス状態から覚醒させた詩音は、ローテーブルの向かい側から立ち上がってベッドに座った。確かに、詩音の言う通りだった。抑えきれないような、強い衝動。詩音が動くたびにチラッと見える『それ』に、抗いようもなく視線を惹きつけられていた。詩音はサディスティックな笑みを浮かべながら、ベッドの上で靴下を脱いだ。俺は座ったまま、にじりよるように詩音に吸い寄せられていた。


「もう、仕方ないですね、先輩は」


 そう言って詩音が俺に向かって脚を伸ばす。俺は両膝を床についたまま、何かを懇願するような体勢で詩音と向かい合った。


「——いいですよ、触っても」


 その言葉に、俺は詩音に向かってゆっくりと手を伸ばした。わずかに残った理性が手を震えさせる。


「あ、でも。くすぐったらダメですからね。そんなことしたらすぐに脚を引っ込めますし、靴下履いちゃいますから」


 詩音の言葉に俺が反射的に顔を上げて詩音を見上げると、目があった詩音は吹き出しながら顔を背けた。


「もう、先輩、そんな捨てられたワンちゃんみたいな顔しないでください。わざとじゃないなら大丈夫ですから」


 そう言われて、俺は胸を撫で下ろす。それから俺はもう一度詩音の脚に手を伸ばすと、足首を掴んでそっと持ち上げた。眼前わずか数センチのところに、詩音の足の裏がある。俺の鼓動は一気に早くなった。


 今日詩音がかけた催眠は、強烈な『足の裏フェチになる催眠』だった。脚フェチですらなく、足の裏限定で。今の俺には、足の裏は全裸と同レベル以上に劣情を掻き立てる部位だった。なにしろ、他の秘所同様に滅多に他人に見せる場所ではない。それに、こんなに深いシワが走っている。俺はためらいながらも、ゆっくりと両手の親指で詩音の足裏に触れた。感触を確かめるように、ゆっくりと親指の腹でこする。他の場所とは違う厚い皮膚の感触に頭が真っ白になりそうになる。足裏は『敏感』な部位だ。雑に触ればくすぐったくさせてしまうだろう。皮膚だけではなく、筋肉まで深く感じるために、マッサージのような力加減で足裏を揉む。


「ふふ、先輩、気持ちいいです」


 小さく笑って詩音が言った。もっと、もっと詩音の足裏を感じたい。俺は更に詩音の脚を持ち上げて、頬擦りするように顔を押し付けた。硬い皮膚の感触が敏感な頬から伝わってくる。それだけでなく、シワの入り方まではっきりと分かる。興奮に息を荒くしながら、俺は詩音の足裏に顔を擦り付けた。


「先輩、はたから見たら顔を踏まれながらハアハア興奮してる変態ですよ?」


 煽るように詩音が言うが、頭がじんじんと痺れていて反論もできない。その時、荒くなった鼻息の中に違和感を覚えてつぶやいた。


「あれ?いい匂い——」


 足の臭い、というのは人体の中でも悪臭で有名なものだろう。たぶんこの催眠がかかっている以上、それも興奮材料になったとは思うのだが、そうではなくボディーソープの匂いしかしなかった。不思議に思って見上げると、詩音は目を丸くしながら真っ赤になっていた。


「これは、その……こんな催眠をかけるから、先輩に脚が臭いなんて思われたくなくて、念入りに洗っただけです」


 その言葉に、心臓がぎゅうっと縮むのを感じた。詩音の足裏が『いやらしいもの』ではなく『愛おしいもの』に思えてきて、俺は詩音の足裏の母指球あたりにキスをした。


「っ〜〜〜!!!」


 パチン


 耳まで真っ赤にした詩音が、催眠を解く指パッチンをした。


「はい!今日はこれで終わりです!おーわーりー!いやー、今日の先輩は完全に変態でしたね——」


 切り上げて立ちあがろうとする詩音の足首を両手でぎゅっと掴む。


「……先輩?」

「まだ。もうちょっと」


 そう言って俺は、詩音の土踏まずに舌を這わせた。


「せせせせせ先輩!?もう催眠は解きましたよ!?」

「…………まあ、それでなくとも——足の裏ってエッチだしね」

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