第24話 クーラー催眠
パァンッ
手を叩く音が響き、詩音がゆっくり目を開く。
「先輩。どうですか?催眠はうまくかかりましたか?」
俺は黙ったまま、正面に座る詩音の左手をとった。詩音が首を傾げる。俺は一度深く息を吸い込むと
「ふーっ」
手首から二の腕まで誕生日のろうそくを吹き消すように息を吹きかけた。
「冷たっ!?」
詩音は背中をビクッとさせて腕を引っ込めた。その様子を見て俺はうなずく。
「うまくかかってるみたいじゃないか。クーラー催眠」
「いよいよ魔法じみてきてますね……」
詩音が冷房なしでも涼しく過ごせないかというものだから、こんな催眠を試してみたのだ。心頭滅却すれば火もまた涼しというわけで、暑い寒いというのは脳が処理する主観に大きく左右されるものなのだ。実際の気温は変わらないけれど。今回の催眠はかなりうまくいったようで、詩音は小さく震えている。
「あの、先輩。ちょっと効きすぎじゃないですか?温度調節とかはできないんですか?」
そう言って、詩音が二の腕をこする。
「うん?割と大雑把な暗示だから、そんなに芸が細かいことはできないけど。その辺も今度やるときは考えてみるか」
「ちょっと、毛布かぶります」
詩音がベッドから毛布を引っ張って肩からかけた。それでも詩音は震え続けている。それも当然といえば当然だ。なにせ外気温は関係ない。というか、寒いと感じているのは脳の勘違いで、いまだって詩音は汗をかいている。
「せ、先輩。まだ寒いです。先輩も入ってきてください」
戸惑いながらも、詩音が広げる毛布の中に入る。催眠が効きすぎるという展開は想定していなかったから、対処法がすぐに思いつかない。これですこしでも楽になるといいんだけど。詩音が毛布で包み込むように、汗でじっとりと湿った体を押しつけて抱きつく。
「けっこうあったかくなりました」
そう言いながら詩音はブラウスのボタンを外す。
「詩音、詩音?何してるの?」
「服越しじゃなくて、直接の方が温かいはずです」
なるほど。なるほど?そう思っている間に詩音は服を脱ぎ去っていた。それから詩音が俺の体に体を擦りつける。
「詩音?」
「摩擦熱です」
なるほど。なるほど?いや、なるほどか?というか、こんなことされたら、さすがに
「先輩」
「はひっ!?」
詩音の手が、ズボンの中に滑り込んでくる。
「先輩、あと、激しい運動をすると温かくなりますよね」
これは、なんというか、その、完全に捕食されてはいないだろうか?
「先輩。まだ寒いです。寒いから、仕方ないですね」
「ちょ、これは」
ずぷ。ずぷり。
「先輩、せんぱい!」
詩音がぎゅーっと抱きつきながら腰をうちつける。
「先輩が!ナカで、熱いです!」
熱く激しい息を詩音が吐く。ああ、とろけそうだ。
——「と、いうわけでふたり揃って熱中症になったわけだが」
隣に寝る詩音に言った。詩音もさすがにばつが悪そうな顔をしている。
「こういう感覚をいじる催眠は、使い方に気を付けないとな。いくら寒く感じても、実際に気温が下がるわけじゃないんだから」
「そうでした……」
結局クーラーをガンガンに効かせた部屋で、腋を保冷剤で冷やしながら横になるはめになってしまった。
「でも先輩」
その声に視線を遣ると、詩音がガバッと身体を起こした。
「涼しい部屋でくっつくのすごい気持ちいいってことがわかりました!今度はちゃんとクーラーをかけながらしましょう」
そう言って詩音がぎゅっと抱きつく。あまりの凝りなさに目を丸くしてから吹き出した。それから詩音の後頭部をなでる。
「なあ、さっきのって、どこからが口実?」
それを聞いた詩音は、顔を隠すように俺の胸に埋めた。
「いじわるなことを言う先輩は嫌いです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます