第81話 カフェ催眠
パァン
『紅茶の美味しいカフェに来ている』
内装は木目調で統一され、落ち着いたBGMが流れている。
「うん。美味しい」
豊かな紅茶の香りを感じながら、俺はティーカップをソーサーに戻した。それから、少し右眉を上げながら左側を見る。
「……なんで隣に座ったの?」
その問いかけに、後輩の詩音は意外そうに眉を上げながら、俺を見上げて言う。
「なんでって、なんでそんなこと聞くんですか?」
「いや、普通正面に座らない?いつも正面に座るでしょ?」
俺がそう訊ねると、詩音は分かったぞとばかりににんまりとした笑みを浮かべながら言う。
「さては先輩、私が正面にいないとよく見えなくて寂しいんですね?」
「……どちらかといえば警戒してるんだが。詩音がいつもと違うことをするときは、大概なにかろくでもないことを企んでる時だからな」
俺が眉間に皺をよせながらそう言うと、詩音は一瞬むっとしたような表情になった。それからスンッとした顔で目をつぶって、正面を向きながら言う。
「では、そんな警戒している先輩にお聞きしますけど」
「けど?」
「——身体って、動きますか?」
そう言われて、俺は目を丸くする。たしかに、首から下の身体が動かない。ティーカップをつまんだ指さえも放すことができない。そんな、こんな催眠なんていつの間に?
「……動かないです」
「そうですか〜。それは困りましたね〜。こんな喫茶店で、身体が動かなくなってしまうなんて」
詩音が白々しくそう言う。いや、それよりも問題なのは、詩音の右手が俺の太ももを撫でている。
「詩音、まさか——」
「どうしたんですか?先輩」
言いながら詩音の手が俺の脇腹を這って、ワイシャツの上から乳首をつまむ。
「んっ!」
「もう。先輩、エッチな声出さないでくださいよ。他のお客さんに怪しまれちゃいますよ?」
そう言われて、俺は下唇を噛む。どの口が言うんだとは思うが、危機的な状況にあることは間違いない。その間にも、詩音が俺と反対方向の斜め上を見ながら、片手でワイシャツのボタンを外す。
「おまっ」
「静かに。私も別に先輩を前科者にしたいわけじゃないですから」
言いながら、詩音が俺のズボンのファスナーを下ろす。詩音の手がパンツの中に入ってくる。俺はパニックに陥る。依然として身体は動かない。ここまで来てしまうと助けを呼んでも事態が好転するとは思えない。自己暗示で上書きすれば身体を動かすこともできるかもしれないが、時間がかかる。間に合わない。というか、今この瞬間誰にも気づかれていないのが奇跡のようなものだ。詩音の手が俺の身体から離れる。それから、固まった俺の隣で何やらもぞもぞと動いて、何かをテーブルの上に置いた。よく見るとそれは、直前まで着用されていたパンツだった。
「先輩」
詩音はそう言って俺の膝の上に、俺と向かい合うように座る。
(ずるいぞ!スカートだからってパンツ脱ぐだけで済ませるなんて!こっちはもう半裸なのに!)
そういう問題か?
「詩音!それはさすがに——」
俺の口を詩音の唇が塞ぐ。俺は目をつぶる。
パチン
そして指パッチンの音が響いた。
俺が目を見開くと、焦点を結んだ目に映ったのは、いつもの詩音の部屋だった。壁の充電器に繋がったスマホからは、カフェ風のBGMが流れている。
「そんなわけで、催眠による擬似露出プレイでした。別に先輩を前科者にしたいわけじゃないですからね」
ぷはっ、と唇を離した詩音が言った。それから、煽るような笑みで続ける。
「それにしても先輩、そんなに涙目になりながらでも勃ちっぱなしだなんて。先輩ってば、本当にエッチなんだから」
俺は右眉を高く吊り上げながら、奥歯を噛み締める。そして、反撃として詩音のミニスカートをバッ!とめくり上げた。
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