第126話 手ックス催眠

 パァン!


「ふう〜……」


 トランス状態から目を覚ました俺が目を開くと、正面に座った詩音が一仕事終えたとばかりに大きく息を吐いた。


「さぁ、先輩。これで先輩の手は1024倍敏感になっているはずです!」

「……」


 物騒な響きに少し戦慄して、俺は自分の両手を眺めた。1024倍というのは、常人に耐えられる感度ではないのではないだろうか?ちなみになぜ1000倍ではなく1024倍なのかというと、『感度が2倍になる催眠を10回重ねがけした』という意味だからだ。そんなことを考えていると、詩音が俺の右手の手首を両手で掴んだ。


「では先輩。今日は手だけで絶頂することに挑戦してみましょう」


 そう言って詩音は、俺の右手を引き寄せて頬に添えさせた。


「!?!?」


 指が頬に押しつけられて、俺は反射的に背中を伸ばした。字面だけでは想像しきれていなかったものが、目の前に突きつけられる。まるで一番敏感な部分の皮膚を剥いて快感を感じる神経を剥き出しにしたかのような感覚。電撃めいた快感が指先から腕を通って脊髄まで駆け抜ける。詩音が頬を手に擦りつける。肌のきめの一つ一つに快感神経を突き刺されるような強烈な刺激が走る。


「えへへ、先輩、気持ちいいです。先輩も気持ちいいですか?」


 甘えたような、少し恥ずかしさも混ざったような笑顔で詩音が訊ねる。


「おかしく、なるっ!」


 俺が息を詰まらせながら答えると、詩音が笑う。


「それはさすがに早すぎですよ〜!先輩の早漏」

「っ〜!」


 いつもなら反論しているところだけれど、今は奥歯を噛み締めて快感に耐えるので精一杯だ。


「先輩?ずいぶんいっぱいいっぱいみたいですけど……手ってふたつあるんですよ?」

「!?」


 そう言って詩音は、左手も反対側の頬に添える。手のひら側が詩音の頬に、手の甲側が詩音の細い指に挟まれて、頭がトびそうになる。


「おや、先輩、意外としぶといですね。なら……これでどうですか?」


 そう言って詩音は、口元に来ていた俺の親指を口に咥えた。


「んあぁっ!」


 思わず口から喘ぎ声が漏れる。熱く湿った感触と、母指球に触れる唇の柔らかい感触が過剰に鮮明に感じられる。詩音の舌先は容赦なく俺の親指を嬲る。俺は荒く息をしながら腰をびくんびくんと動かして身悶えする。


「へえ。先輩は手で感じてても腰が動いちゃうんですね。これは発見です」


 そう言いながら詩音は、ワイシャツのボタンを外して前をはだけさせる。それから顔に置かれていた俺の手を、胸へと導く。


「こんなに敏感になっているおててで、先輩の大好きな私の胸に触ったら、今度こそ達してしまうんじゃないですか?」


 そう言って詩音は、ブラの下の胸を両手に掴ませる。


「あ゛あ゛っ!」


 なめらかな肌と、指が沈み込むような柔らかい感触。先端で主張する硬くなったそれ。あまりの快感に、頭が真っ白になる。


「んっ!いいんですよ、先輩。我慢しないで、いっぱい気持ちよくなってください」


 詩音が小さく喘いで言う。俺は衝動的に詩音の唇にむしゃぶりついた。


「んっ!」


 胸を揉みしだいて、指先から流れ込む快感に溺れながらお互いの唾液を交換する。弄るように唇を激しく動かしながら、舌を絡めあう。どこか身体の中心あたりから、熱いものが込み上げるように広がっていくのを感じる。真っ白なものが全身を満たしていく。


「ぷはぁっ!もう!」


 と、詩音が背中を反らせながら両手で俺の身体を押し返した。それから頬を膨らませて、俺の唇を人差し指で押さえながら言った。


「“手だけで”って言ったじゃないですか。興奮してしまうのは分かりますけど、キスはめっ、ですよ」

「はぁ……はぁ……」


 俺は返事をせずに、ただ肩で息をした。


「ああ〜……、先輩、もう限界みたいですね。こんなにぐったりしてしまって」


 詩音はそう言うと、口元に笑みを浮かべて言った。


「大丈夫ですよ。ちゃんとイかせてあげますから……最後はやっぱり、“ここ”で気持ちよくなりたいですよね?」


 そう言って詩音は、俺の右手をスカートの中に招き入れて、手のひらをおへその下に擦りつけるようにしてパンツの中に入りこませる。


「んぐっ!い゛っ!」

「はぁっ、はぁ……先輩……いい、ですよ?来てください。私も、気持ちよくして?」


 ——


 パチン


 指パッチンで催眠が解ける。


「えへへ。先輩、いっぱい気持ちよくなっちゃいましたね?」


 満足げに笑いながら詩音は俺に抱きついて、俺の頭を撫でた。俺はまだ呼吸が落ち着かない。なんで催眠をかけた側の詩音がこんなあられもない格好になっているのかとか、どうやって家に帰ればいいのだろうかとか、考えなければいけないことはいくつもあるような気がするのだけれど、何かを考えるには酸素が全然足りなかった。

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