第38話 抱き枕催眠

 どうも、春野詩音です。ベッドの上に転がってるのが先輩。先輩は、裸で仰向けに横になっています。そして、その状態から動けません。


 今日は、先輩に身体拘束の催眠をかけました。ベッドの上で動けない先輩は、ほとんど抱き枕のようなもの。まさにまな板の上の鯉、ベッドの上の恋人……あれ?この全然上手くないくだり前にもやらなかった?


「詩音?」


 考えごとを始めかける私に、ベッドの上から先輩が呼びかける。まあ、いいか。単なるデジャヴでしょう。


「何ですか先輩。もしかして、待ちきれなくなっちゃいましたか?」

「そんなわけあるか!何もしないなら催眠を解けって言ってんだよ」

「またまた。男の子が裸で本音を隠せると思ってるんですか?」


 私が笑いながら先輩の脚の根本に目をやると、先輩は真っ赤になった。手足は動かないけれど、そこはピクンと動く。


「生理現象だ!!」


 先輩が叫び、私が吹き出す。それから私はやれやれとばかりにため息を吐いて、ベッドに腰を下ろした。


「そんなに急かされたら仕方がないですね。ええ。ちゃんとしてあげますよ。エッチな先輩のために」

「言ってねえ!」


 覆い被さるように先輩の抗議を唇で塞ぐ。少しはしたないかもしれないけど、脚を大きく開いて馬乗りになる。唇を離したときには、先輩の顔はとろとろにとろけていた。


「ふふっ、可愛いですよ?先輩」


 それから頬ずりしながら唇を耳に移す。耳たぶを唇でくわえる。


「……っあ」


 先輩が堪えきれないように切なげな声を漏らす。


「先輩、耳弱いんですよね。気持ちいいですか?」


 囁きながら、先輩の耳を舐める。身体がピクンと震える。身体を擦り付けると、くすぐったいような、もどかしいような快感が全身に広がる。


「先輩。このあとどうして欲しいですか?先輩は私に何して欲しいですか?」


 熱く荒い息をする先輩に、小悪魔めいた誘惑をする。


「このまま、離さないで」


 耳元で聞こえた、予想外に甘えた言葉に心臓が跳ねる。私は腕にぎゅっと力を込め——


——「後ろに俺がいるから」


 背後から聞こえた先輩の声に心臓が飛びあがった。振り返るより早く、強烈な力で抱きしめて押さえつけられる。熱い体温を感じる。


「耳が弱いのは詩音だって同じじゃないか」


 そういいながら背後の先輩は、うなじから首筋、耳の裏へと舌を這わせた。熱く湿った感触に思わず身体が震える。


「あんっ!」

「ほら。気持ちいい?」

『感じてる詩音、可愛いよ』


 熱い体温に挟まれて、両側から甘い言葉をかけられて、もうわけが分からなくなる。


「まっ!待ってください!なんで先輩がふたり——ひゃああぁぁぁん!!」


 ——


「何もないのに先輩が物をくれるはずがないんです。もっと警戒すべきでした」


 顔を埋めながらくぐもった声で私は言った。


「いや、そんなにケチじゃないぞ俺。でも、買った甲斐はあったな」


 そう言って先輩は笑って、私はますます膨れた。


 ふたりの先輩に同時に責められて、快感と混乱でぐちゃぐちゃになっていたけれど、解けてみればなんということはない。今日の催眠は、『先輩が抱き枕になる催眠』ではなく、『抱き枕を先輩と思い込む催眠』だったのだ。私が催眠をかけたと思い込んでいたのは、抱き枕が動かないことへのカモフラージュ。前置きもなく先輩が買ってきたY○gib○の抱き枕に、私は深く顔を沈めた。


「まったく、もらったばかりなのにもう洗わなくちゃいけなくなったじゃないですか」

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