第41話 ドレインキッス催眠

 パァン


「それで先輩、今日はどんな催眠をかけたんですか?」


 いつもの部屋、いつものローテーブルの前に座って小さく首を傾げながら後輩の詩音が訊ねる。ショートカットの黒髪が揺れる。ずいぶんと長いこといろんなエッチな催眠を試しているけれど、よくまあネタが尽きないなと我ながら思う。


 俺は、客観的に見たらいやらしい感じであろう笑みを浮かべながら詩音の隣に座って頬に手を添えた。詩音は少し頬を染めながら、目を閉じて唇を突き出した。俺はゆっくりと顔を寄せて、唇を触れ合わせる。


「!?」


 詩音が驚愕に目を見開く。後退りして逃げようとする詩音の腰に腕を回す。それからもう一度、今度はもっと深いキス。押しのけようと俺の胸に当てられた腕がだらりと下がる。


「ひぇんぱい。なんれすか、これ」


 少し呂律が回らない様子で詩音が聞く。どうやら催眠はよく効いているようだ。俺は小さく笑って、詩音の耳元で囁く。


「キスされてる間は、力が入らなくなる催眠。なんか、吸血鬼みたいで面白いでしょ?」


 耳に息がかかってくすぐったいのか、詩音の身体がビクビクッと震える。詩音が我に返って、腕から逃げようともがき始める直前にキスを再開する。舌を絡めて、唾液を交換する。詩音の身体からガクッと力が抜けて腕に体重がかかる。右手で頭を支えながら、唇が離れないように詩音を床に寝かせる。だらんと脱力した様子で手足を広げて、蕩けた表情になる。


 俺は詩音の無防備な太ももに手を這わせる。詩音がくすぐったそうに身体を震わせるが、キスをしている限り逃げることはできない。熱くなる体温と脈拍と、胸ともお尻とも違う蠱惑的な感触を存分に味わう。口に流れ込む詩音の息が熱くなる。男は胸派と尻派に分けられるというが、感触の魅力で言えば太ももは第三勢力を築ける。


 そんなことを考えながら、詩音の脚を撫でる手を北上させる。スカートの中に潜り込ませると、詩音が目をきゅっとつむる。指先で探る。一際熱い体温と、むっとするような湿度。布越しでも濡れていることが分かる。両手をパンツと腰の間に滑り込ませて、太ももの真ん中あたりまで引き下ろす。


「へんはい」


 詩音が甘えた声で抗議するように言った。『先輩』と言おうとしたのだろうか?それとも、『変態』?まあいい、どちらでも大差は無いのだから。そんなことを言われたって、俺だってこんな、ずっとキスをしながら理性が保つような聖人君子じゃないんだ。詩音の唇は柔らかくて、甘くて、声も甘くて、頭が芯から痺れてしまうようだ。


 今度はお腹に手を添える。ワイシャツのボタンを外しながら詩音の身体をまさぐる。


「あんっ!」


 詩音が喘ぎ声を上げる。ボタンを外しきった俺は、フロントホックのブラを脱がせる。重力に潰された、形の良い白い胸が露わになる。詩音の腕がピクッと動くが、すぐに脱力する。すくいあげるように、手のひらで覆うように詩音の胸を優しく揉む。詩音の息が荒くなる。硬くなった先端を擦り、つまむ。幸せな感触を存分に味わう。男は尻派、胸派、太もも派に分かれると言うけれど、俺は詩音派だ。


「しぇんはいっ!とけちゃ、溶けちゃいまふ!」


 詩音が喘ぐ。俺はぎゅぅっと強く詩音を抱きしめると、ベルトのバックルに手をかけた。


 ——


 パチン


 弾切れ、エネルギー切れになってようやく冷静さを取り戻した俺は、腕の中の詩音の催眠を解いた。


「先輩の変態」


 詩音は俺に身体をぴったりとつけながら、上目遣いでそう言った。


「まあ、反論する余地もないな」


 詩音の背中を撫でながら俺は言う。


「ところで詩音、ひとつ気になることがあるんだけど」


 俺の言葉に詩音は首を傾げる。俺は続けた。


?」


 その言葉を聞いた詩音は目を見開いた。ああ、やっぱり。単に力が入らなくなる催眠なら、『キスをしてる間は』なんて条件を付ける理由なんてないし、少なくとも俺はしない。


「詩音?」

「な、何のことでしょう?私にはさっぱり分からないですね」


 そう言って詩音は露骨に目を逸らした。俺は小さくため息を吐くと、詩音のこめかみにキスをした。

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