第85話 身体拘束催眠
パァン
「む」
意識は戻ったけれど身体は動かない。金縛りのようなこの感覚は、典型的な身体拘束の催眠だ。ベッドの上に仰向けに横になって、トランス状態の間に脱がされたのか、制服があられもなく着崩れた状態になっている。かろうじて動く首を動かして先輩の姿を探す。
「それで?こんな催眠をかけて私をどうするつもりですか?先輩」
挑発するような表情を作りながら私は言った。先輩が答える。
「エッチなことをします」
「へ?」
予想外の返答に私は気の抜けた声を出してしまう。なんというか、いつもとパターンが違う。見ると、先輩は私よりもあられもない姿というか、準備万端と言わんばかりに素裸になっていた。先輩がベッドに足をかけ、ベッドがぎぃっと軋む。
「ま、待ってください!エッチなことって何をするつもりですか!」
「うーん……」
焦りながら私が訊ねると、考えるようにうなりながら私の隣に横になって耳元で囁いた。
「まずは——を—で——て、——とか、——とかを——て——かな。たっぷり——てから、思わず——が——くらい——した後、——になった詩音の——に——て、——みたいに——く——てあげる。詩音の——を、——とか、——とかを何度も何度も。——するところも——たいな。可愛い——を——ながら——詩音に、——で——。その後は……その時に考えるかな」
カクヨムでは到底書けないような卑猥な言葉に私は目を丸くする。言葉で語られただけで、身体の真ん中あたりをぞくぞくする感覚が走る。
「じゃあ」
そう言って先輩が私の上に覆い被さるような体勢になる。
「待ってくださいって!」
「……だめ?」
「私がいいって言うわけないじゃないですか!!」
残念そうに小首を傾げる先輩を私は睨む。先輩はため息をついてから、やれやれとばかりに言う。
「じゃあ、キスくらいはしてもいい?」
「キ、キスまでなら……」
私は目を逸らしながら答えた。
「分かった」
そう言って先輩は身体を起こす。
「唇と唇までですよ!!そこは別のことになりますから!!」
私が叫ぶと、両手で私の膝を押して脚を広げさせだしていた先輩が、若干不満そうに顔を上げた。
「分かった。唇と唇のキス以上にエッチなことはしない。約束ね?」
息がかかるような距離で先輩が言う。私は頷いた。先輩が目をゆっくりと閉じる。唇が重なる。腕が支えていた先輩の体重が私の身体にかかり、少し苦しくなる。熱い先輩の体温が伝わってくる。舌が触れ合う。頭が痺れるような快感が流れこむ。先輩の腕が私を抱きしめて、背中を撫でる。優しく頭を撫でる。幸福感。唾液のいやらしい音を立てながら、何度も何度も繰り返しキスをする。身体の芯が熱くなるのを、息が荒くなるのを感じる。
「せんぱい……」
キスが途切れて私が漏らした声は、自分でも驚くほどの哀願するような媚びた響きを帯びていた。それを見た先輩は、私に頬擦りするような動きで耳元に口を寄せた。
「ごめん詩音。もう我慢できない」
そう言った先輩の唇が私の耳たぶを吸う。待ち望んでいた唇以外への快感に、動かないはずの身体がビクッと跳ねる。背中にあったはずの先輩の右手が、脇腹から鼠蹊部のあたりを撫でている。
「せんぱい、やくそくは……?」
「したけど、無理なものは無理。こんなに可愛くてエッチな詩音を見たら我慢なんてできない。やっぱり全部する」
そう言って先輩が耳穴に舌を挿れる。右手ですくいあげるように私の胸を揉む。
「んんっ!せんぱいのばかぁ!」
私は少し泣きそうな声で、喘ぎながら言った。
本当は、どっちも分かっているのだ。私があとほんの一押しで、先輩にもっとエッチなことを懇願せずにはいられなかったことも。先輩がそれに気づいていて、わざと自分から約束を破ったことも。素直になれない私たちは、おねだりの言葉さえひっくり返しだ。
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