第99話 腕枕催眠
パァン
「今度こそ大丈夫なはずです!この催眠で、先輩は私にエッチなことができません!」
叩いた手を合わせたまま、後輩の詩音が言った。トランス状態から目を覚ました俺は、額を手で押さえながら頭を振る。
「……別にいいけど、なんでまたそんな催眠を?」
「とにかく、先輩はベッドに寝てください。腕伸ばして」
俺の問いかけは無視して、詩音は大袈裟な身振りで俺にベッドに横になるように促す。俺は腑に落ちないものを感じながらも、言われるがままに布団に潜り込んで、腕を伸ばす。
「とう」
「!?」
小さな掛け声と共に詩音がベッドに滑り込んで、俺の上腕に頭を乗せる。俺は目を丸くして、鼓動が速くなるのを感じる。詩音は楽しげな笑みを浮かべながらいう。
「イチャつきたくても、私が先輩と一緒にベッドに入ると先輩に襲われてしまうので。催眠をかけることで、こうして安心して、腕枕を堪能できるというわけです」
「お、襲う?俺が——?」
自己評価としては忍耐力がある方なのだけれど。全力で記憶を遡る俺に、詩音がいう。
「そうです。先輩はエッチですからね。でも、今の先輩はエッチなことをしようとすると身体が固まってしまうんです。今日は健全にイチャイチャしましょう」
詩音は楽しげにそう言って、目を細めながら腕に頬擦りする。
「先輩、ちょっと腕太くなりました?」
「……少しだけ筋トレしてるからな」
「あの先輩が!?」
詩音が目を丸くして叫ぶ。俺は目をそらした。別にスポーツをやるわけではないけれど、俺だって他人と自分比べたりするのだ。そんな内心を知ってか知らずか、詩音はにやついたような笑みを浮かべる。
「へえ」
「なんだよ」
「いえ、先輩にも可愛いとこがあるんだなと思っただけです」
そういうと詩音は俺の身体に腕を回して抱きついた。
「先輩……顔、近いですね……」
息がかかるくらいの距離で詩音がいう。それからゆっくりと目を閉じて、唇を重ねた。甘く柔らかい感触が数秒。唇が離れて目が合った詩音は、照れたように笑った。
「えへへ」
そして2回目はもっと深く、長く。お互いの舌を絡めて、熱い息を交換して。詩音の右手が脇腹を這って、腰を撫でる。くすぐったさに思わず鼻から息が漏れる。
「んふっ」
「先輩?」
「ごめん。詩音、その触り方は——」
俺は赤くなって言葉を切った。詩音が息を呑んで、陶然とした表情になる。
「先輩、どうしてそんなエッチな顔するんですか?」
そういいながら、詩音が俺の内腿に手を這わせる。
「んっ!」
「先輩。私、言いましたよね?健全にイチャイチャするって」
詩音が俺を仰向けに倒して、その上に馬乗りになる。
「ダメですよ、先輩もちゃんと我慢しなくちゃ」
詩音が俺のワイシャツのボタンを外す。胸の真ん中に手を当てて、横にずらすように撫でる。詩音の細い指が乳首を弾く。
「詩音っ、そこは!」
「それなのに、ちょっと敏感な場所を触られただけで、そんなにエッチな顔で、びくびくって身体を震わせて、いやらしく喘いでおねだりするなんて——」
詩音はのしかかるように身体を倒して、耳元で囁いた。
「先輩はほんとうにいけない先輩ですね」
——
「っ〜〜〜〜!!!」
詩音は大きく身体をゆみなりに反らせたあと、ぐったりと俺の上に倒れこんだ。剥き出しの詩音の胸が押しつけられる。詩音は荒く息をしながら、這うように俺の身体を登ると、頬にかぶりつくようなキスをした。それから、ぷんぷんという擬音が聞こえてくるような顔になっていう。
「まったく、もっと催眠を工夫しないといけないですね。こんなに厳重な催眠をかけたのに、私を誘惑してこんなことするなんて。先輩のエッチ。変態。色情魔」
「あははは……」
いまだにぴくりとも動かせない身体に、俺は困ったように笑うしかなかった。
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