第97話 手袋催眠

「先輩。それは……なんです?」


 怪しむような視線を投げかけながら、後輩の詩音が言う。


「これは、俺が厳選に厳選を重ねた生地で作った、対詩音なでなで専用手袋だ!」


 俺はミトン状の手袋をつけた両手を開きながら詩音に言った。


「……作ったんですか?先輩が?それを?わざわざ?ちくちくと?」

「ほら、おいで。絶対気持ちいいから」


 呆れたようにいう詩音を、壁に寄りかかりながらベッドをぽんぽんと叩いて呼ぶ。詩音はやれやれとばかりに頭を振ってため息を吐いた。


「まったく、変なことにばっかり情熱を使うんだから——」


 そういいながら詩音は俺の膝の上に乗って、抱きつくように身体をもたれかからせる。


「はい、先輩。それで、どうしたいんですか?」


 上目遣いにそう問いかけられて、思わず小さく笑う。


「じゃあ、始めるね」


 そう言って俺は、両手で詩音の頬を包むように触れた。


「あ——」


 詩音が小さく声を漏らす。この手袋は毛足が細くて長い毛布のような生地でできている。その毛足を倒さないように、文字通りのフェザータッチで詩音の頬をふわふわと撫でる。詩音の表情がとろける。抱きつく力が強くなる。その様子に、自分も鼓動が速くなるのを感じる。両手を詩音のワイシャツの下から内側に滑り込ませる。脇腹をかすめて背中をなでる。


「ん!」


 詩音がひそやかな喘ぎ声をあげる。首に回した腕でぎゅっと抱きついて、俺の耳に熱い息がかかる。


「先輩——」


 パァン


「はっ!!」


 手を叩く音でビクッと目を覚ました。確か俺はさっきまで、特製の対詩音なでなで専用手袋で……。


「……ずいぶん催眠が上達したもんだな」


 いつのまに催眠にかけられていたのか分からなかった。かろうじて動く首で詩音の方を向きながら余裕ぶって言う。実際にはあまりに追い詰められた状態なのだけれど。トランス状態から覚醒しても身体は動かないし、催眠にかかっていた間に服は完全に剥かれている。ベッドの脇では生まれたままの姿で膝立ちになった詩音が目を妖しく光らせながら微笑んでいる。そしてその両手には、あの手袋が。


「先輩が『絶対気持ちいい』って言うってことは、先輩がされても『絶対気持ちいい』……ってことですよね?」


 その言葉に目を見開く。心臓が早鐘を打つ。詩音が手袋をつけた右手をゆっくりと俺の胸に近づける。


「まっ——」


 詩音の手が俺の身体を優しく撫で、制止の言葉が熱い吐息に変わる。


「さわさわ、さわさわ」


 胸の上を往復し、脇腹をなで、お腹で円を描く。じわじわと、もどかしいような快感が広がる。


「あっ——」


 詩音の手が下がっていく。骨盤の上を撫で、鼠蹊部をなぞる。太ももの内側をさわさわと撫でる。


「そこはっ!ほんとにダメっ!」


 動かせない身体をビクッと震わせながら喘ぐように言う。


「ふふっ、とろけてる先輩、かわいい」


 詩音は楽しげにそう言って、俺の唇を唇で塞いだ。フェザータッチの快感と柔らかい唇の快感に、頭が真っ白に飛びそうになる。それから詩音が俺の上に覆い被さるように横になって、耳元で囁いた。


「先輩の敏感なところ、気持ちいいところ、先輩が私のために作った手袋で、いっぱい、いっぱい、気持ちよくしてあげますね?」

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