第70話 寝たふり催眠

 パァン


「よし、よく寝てるな」


 私は仰向けで目を閉じながら、ベッドの横で先輩がそう言うのを聞いた。先輩でもこういうことがあるのだろうか?安眠導入の催眠をかけられていたはずなのに、意識がはっきり残っている。そんなことを考えていると、先輩が頭を撫でる感触がした。


「黙っていれば可愛いんだけどなぁ」


 ……ほう?しゃべっている私は難ありと?

 ……まあいいでしょう。このまま寝たふりを続けて、先輩が寝てる私に何をするつもりなのか見てやろうじゃないですか。決定的な瞬間で起きて「最初からずっと起きてましたよ?」ってびっくりさせてやる。

 私がそう決意したあたりで、先輩が服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえてきた。服を脱いでる?どこまで?思った以上に本腰を入れてきた先輩に軽く焦る。貞操の危機というには少し遅いけれど、まさか先輩がそんなにがっついてくるなんて……。いや、やはり無防備に眠る大好きな後輩ちゃんの姿を見たら、さしもの先輩も辛抱たまらなくなったということでしょうか。


「詩音」


 先輩が私の名前を呼びながら、私の上に覆い被さる。起こさないようにという配慮なのか、体重を両腕で支えて私に重みがかからないように。身体がわずかに触れ合って、先輩の体温が伝わってくる。いつもより少しだけ強く先輩の匂いがする。それから、先輩の熱い息と唇が私の唇に触れた。湿った舌が歯の間に割り込んで、舌先が触れ合う。


「ぷはぁ」


 潜水していた人のような声を出しながら先輩は唇を離した。顔が赤くなってしまっていないだろうか?そんなことを考えていると、先輩が私のワイシャツのボタンに手をかける感触が伝わってきた。鼓動が速くなる。先輩はそのまま私のワイシャツをはだけさせ、スカートを太ももまで下ろした。下着も脱がされて、ひどく無防備なあられもない姿になる。先輩の変態。それから先輩の手が、私の胸をすくいあげるように優しく触れて、乳首を熱い舌先が濡らす。


「っ!」


 思わず声が出そうになるのを堪える。それでも身体は震えてしまう。先輩は私の胸を深くくわえて、硬くなった乳首を口の中で転がす。息が熱くなる。私が起きてる時もこれくらい激しく求めてくれていいのに。


「……ひょっとして起きてる?」

「!?」


 突然の先輩の言葉に、私は息を呑んだ。先輩の手が身体から離れ、沈黙が流れる。


「……そんなことないか」


 そう言って先輩はもう一度私の胸を揉み始めた。両手で胸を揉みながら、首筋にキスをする。身体に腕を回して、腋、あばら。キスの場所が下がっていく。お腹、おへそ、下腹。鼠蹊部、股関節。太ももを唇で甘噛みするように嬲る。執拗に、敏感な内腿も。身体が熱くなっていくのを感じる。一番期待していたところの寸前で先輩の唇が離れる。そして、先輩が私にのしかかる。体重をかけて、押し潰すように。全身が先輩と触れ合って、先輩の硬く熱いものが押し付けられる。先輩の熱い息が耳にかかる。


「お疲れ様。よくがんばったね」


 パチン


 耳元で指パッチンが響いて、私は目を見開いた。先輩はぎゅうっと私を抱きしめながら、こらえるように笑っている。よく考えればおかしな話だ。服を脱がされて、おっぱいを吸われて、全身にキスされているのに寝たふりを続ける理由なんてない。つまり、先輩が今日私にかけた催眠は、安眠導入じゃなくて——


「『寝たふりしなきゃいけないと思い込む催眠』」

「気持ちいいのを必死で我慢してる詩音、可愛かったよ」


 私は真っ赤になって頬を膨らませる。


「先輩のいじわる」


 両脚で先輩の腰にぎゅっと抱きつきながら私は言った。

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