第27話 模擬戦 6

 先を削り、尖らせた太い木を一列に並べ、それらを縄で結び、少し掘った穴の中に尻を固定され、敵に向かい斜めに頭を持ち上げられたパイクに、全速力で突撃したエルンスト達は予期せぬ出来事に、防御魔法を展開することもなく、


ドスリ、ドスリ、グサリ、グサリ


 と音を立てると、先行していたエルンストを含め7名ほどの騎乗していた馬が、パイクに突き刺さった。

 運よく馬から降りた者も、後続の11騎に巻き込まれパイクに突き刺さる。


 2騎は異変に気づき、かろうじて立ち止まり、難を逃れたものの、さらに後ろからマイトランドが、予めスキルで創造しておいた、土くれの騎兵が2騎やってきて押し込まれる。

 その場にいた誰もが、言葉も発することができないほどの、一瞬の出来事であった。

 敵騎兵20騎、全員が動かなくなったのを確認すると、マイトランドは指示を飛ばす。


「シュウ、ジョディー、クリス、こいつらから装備を奪ってくれ。」


「あいよ!貴族様がこんな簡単そうな手に引っかかるものだねぇ。」


 ジョディーは勢いよく返事をすると、小声で呟きながらパイクの頭を引っ張っていた、縄から手を放すと、クリス、シュウと共にエルンスト達からまだ使えそうな武器や盾をはぎ取る。


 当のマイトランドはと言うと、


「フレデリカ、エルンストの顔を確認してくれ。頼めるか?」


 白目を剥いたエルンストの顔を確認させる。


「あ、ああ、間違いない。貴族3班のエルンストだ。」


 新貴族は、貴族と面識がある。しかし平民であるマイトランドは当然貴族たちの顔を知らない。顔を確認させることは、今この模擬戦場にどの部隊が残っていて、どの部隊がもう退場したのか、マイトランド達が唯一知る事のできる術である。


 フレデリカと共に、エルンストの顔の確認が終わるとイブラヒムに念話でランズベルク組の確認をした。


「イブ、ランズベルク組はどんな感じだ?」


 この戦闘終了の少し前、アダムスからの念話を受け取り、ランズベルク組も森林北西部出口で戦闘に陥っていたことを確認する。エルンストの顔の確認前に、それを聞いたマイトランドがやはり結果が気になっていたようで、イブラヒムに確認する。


「アルベルトが新入りを庇って背中と肩に矢を受けたらしい。それ以外の損害はないそうだ。」


「矢ってことは弓騎兵か?新貴族4班とあたったか。アルベルトの容態は?」


「ジョディーに早く来てほしいみたいだ。脱落の危険はないみたいだが、急いでほしいと言っている。」


「警戒を残して撤退しろと言ってくれ!」


 マイトランド組は装備品の回収が終わると、イブラヒムとポエルを残し、パイクと罠を張り直すと、撤退する。当然撤退がてら、道と言う道に罠を張りながら。


--


 先に陣地に到着したマイトランド組はイブとポエルの為にフランを派遣する。フレデリカ達から分けてもらった食料と、毛布を届けるためだ。

 この模擬戦に置いて、音で敵襲を知らせることのできるポエルの警戒は絶対条件で、それを結果二カ所に配置することになるアダムのイブもまた、この戦闘での警戒要員としては外せないのである。


 フランに行かせたのには理由もある。火魔法が使えるため、戦闘糧食を温めるという理由からだ。もちろん、夜間の火の利用は敵に位置を悟らせる要因にもなる。最近ウェリステアの貴族達の間で流行している、タバコ。タバコの火は、夜間であれば2km先からも肉眼で目視できる。

 光源の大きな葉巻などはもっと遠くからでも確認できるだろう。


 光源の問題についてはマイトランドもしっかり考えてある。原始的な方法ではあるが、穴を掘ってあるので、毛布をかぶってその中で加熱調理をする。初級魔法の火力であれば、干し肉など、1~2秒と言ったところだろう。


 フランを送り出したマイトランドは、すぐに戻るであろうランズベルク組の到着を待つ。


 しばらくしてランズベルクが帰ってくると、開口一番謝罪をした。


「マイトランド、すまん。損害が出ちまった。弓騎兵とは思わなくてな。5騎ほど逃げられた。装備の回収は、残った5騎に邪魔されてできなかったぜ。最初から指揮を執っていた人間が、撤退の指揮もとっていたからな。大将のゲシュハルトは逃げた5騎にいると思うぜ。」


「脱落者は出ていないんだ、気にするな。良くやってくれた。それよりアルベルトをジョディーに治療させたか?」


「とっくだぜ。もう終わってる。」


「そうか。よかった。」


「ところでそっちの戦果は?」


「ああ、こっちは貴族3班を脱落させた。たまたま貴族根性丸出しの騎兵だったからな。運が良かったよ。装備もあるぞ。使えそうなものがあれば使ってくれ。それとしばらく指揮を頼む。」


 マイトランドは、そう言い終えると、皆の顔を見て回る。


 大丈夫だ。疲れの色は見えていない。


 まだ一日目で勝利が続いたという事もあり、皆の士気は上々だ。

 そう確信すると自ら冷たい肉を懐に入れ、リザードマンは温めた肉を好むのか、冷えたままが好みであるのかを考えながら、アツネイサの警戒場所へ赴く。

 

 刻はおおよそ深夜を回っていた。

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