第46話 第二次模擬戦 1

 戦場は小高い丘が2つあり、その2つに両軍が布陣する。東側にフリオニール軍が、西側にはグレンダ軍がそれぞれ布陣する。


 丘と丘の間は、ところどころ森林地帯があるが、ほぼ平原で、特筆すべき点があるとしたら、平原中央の河である。

 その河は北から南に流れており、平原中心部の南側で、西側に向かって湾曲している。広く、浅く、流れの緩やかなその河は渡河訓練にはもってこいと言っていいだろう。


 攻防戦では無い為、両軍が進軍し、接敵する仕様の模擬戦の為、陣地構築などはする必要がない。


 合戦開始の銅鑼を待つ間、マイトランドは、ランズベルクとポエルへ戦場北側での任務の指示を出す。


 敵斥候にわざと見つかるように移動し、敵の妨害を退けながら河を上流で塞き止めること。

 それに伴い、斥候の2人に1人は、可能な限り脱落させること。

 ある程度、下流の水位が下がったら、河の関を切らずに、敵に守らせ、決戦中の本隊方向へ移動し、無理のない程度に敵の側面をつくこと。


 それらの指示が終わると、アダムスと各隊に、フォルカンが夜鍋して作成した隊旗を配る。

 アダムスが持つ旗は、大きな真っ赤な生地にフリオニールの家、グレッテ家の家紋が刺繍されている。その他の者が持つ旗は、白地に各隊の隊名、番号が書いてあるだけの簡素なものだ。


 各隊の旗手に旗を配り終えると、全部隊の中央に立ち、マイトランドは大声で叫ぶ。


「各隊に厳命する。隊旗を絶対に地面につけることの無いように。隊旗は隊の現在位置を示す。旗手が倒れそうになった場合には、近くの者がそれを支え、隊旗を維持せよ。旗が倒れた場合には、その隊は壊滅したものとみなす。」


 マイトランドは隊旗の重要性を各隊に伝えると、それとは別に、白地に金色でグレッテ家の刺繍が編み込まれた大将旗を、フリオニールの馬に括り付ける。


「フリオニール、すまない、旗手を出してやる余裕はない。馬に付けておくから大将旗を落とされないようにしてくれ。最悪の場合、自分で持ってくれ。その旗の存在は全軍の士気に関わるからな。頼んだぞ。」


「ああ、わかった。旗手がいないことなど、私は気にしていない。勝利の為にはなんでもしよう。ではマイトランド、全軍の指揮を任せる。頼んだぞ。」


 フリオニールは指揮権をマイトランドに委譲すると、ジョディー隊に合流した。


---

 しばらくして、


 ドーン、ドーン、ドーン。


 と合戦開始の銅鑼が戦場に響き渡ると、マイトランドは騎乗して全軍の先頭に立ち、右手を挙げ、戦場西側方向に向け振り下ろすと、号令を発する。


「全軍前進!接敵、もしくは、戦場中央の河が見えるまでは陣形を気にするな!」


 アダムスが、マイトランドの号令に併せて、旗を左右に大きく振ると、それに合わせてフリオニール軍の全軍が前進を開始した。


 マイトランドは前進を確認すると、最右翼のロンベルト隊に合流し、フレデリカ、クレア、ジェイク、アルベルトに指示を飛ばす。


「フレデリカ、クレア、ジェイク、アルベルト、斥候に出てくれ。方角、距離は、事前の打ち合わせの通りだ、敵斥候、敵小部隊を発見しても、出来るだけ交戦を避けてくれ。俺も敵本隊は随時イーグルアイで追う。頼んだぞ。」


 4名は頷くと、それぞれ、打ち合わせにあった方位へと、速歩で移動を開始した。


 一方のグレンダ軍は、大将グレンダを後方に配置し、8×8の64名で構成されたファランクスを正面に7個部隊、その後ろに隙間なく弓兵、魔法の遠距離攻撃兵を20名ずつ、両翼を40名の騎兵を配置すると、マイトランド達の小部隊襲撃を警戒し、各方位に斥候を出した。

 まさに教科書通りの陣容であった。


 グレンダは、戦力の優位がある為か、


「全軍、陣形を維持しながら、ゆっくりと前進せよ。」


 そう命令すると、部隊を小部隊に分散せずに、一直線に戦場中央を目指した。

 グレンダは副官から、戦場中央に流れている河の、上流方向への斥候を強化するよう進言があったため、進言通りに斥候を2部隊程、間隔を短くして送ると、接敵の報を待った。


 フリオニール軍、グレンダ軍の思惑が錯綜する中、両軍が会いまみえるのは両軍の前進からしばらくして、太陽も真上を通り過ぎた、正午を回っての事だった。

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