第47話 第二次模擬戦 2

 隊列、陣形を無視した強行軍で、先に戦場中央の河に到着していたのは、マイトランド指揮するフリオニール軍であった。


 マイトランドは、各方面に飛ばした斥候からの接敵情報をまだ受けていないことから、全軍に休息の指示を出すと、まだ塞き止められていない河の全容と、主戦場と決めた場所を、フリオニールと、各隊長を伴い見て回る。


 マイトランドが選んだ戦場は、河を中心とした狭い地域で、狭いと言っても9個部隊は展開できるであろう地形である。


 南北へ伸びた河の、フリオニール軍布陣側南部には、背の高い草が腰のあたりまで生えており、その草叢をもう少し南へ行くと、そこはもう森林地帯であった。

 その森林地帯は西へ湾曲した河に沿うように伸びている。マイトランドはアツネイサに指示を出すと、アツネイサの部隊の長槍兵10名をその草叢の中に潜ませた。


 続いて北部になるが、木々が鬱蒼と茂っており、伏兵を配置するにはもってこいだが、マイトランドはあえて伏兵を配置しなかった。


 戦場各地域詳細の観察を終えると、全隊の隊長を集め、フリオニールが全隊の隊長に通達をした。


「今回の模擬戦も金一封が出るであろう。勝利の暁には平民班で分けると良い。全軍に周知してくれ。」


 フリオニールの言葉は、全軍を鼓舞するであろう大将らしい言葉であった。


 戦場の確認を終え、各隊が陣形を整えると、ランズベルクが塞き止めに成功したようで、河の水位が下がっていくのが、マイトランド軍の全員に確認できた。


 水位がある程度下がると、マイトランドは全軍の先鋒であるライアネン隊を、戦域中央部、もとあった河のラインギリギリに配置し、他の部隊もそれに合わせて移動させ、敵の到着まで全軍に再び休息とし、隊形を維持しつつ、食事や水を取らせた。


 自身のスキルと、斥候からの報告で、おおよそ接敵する時間は掴んでいたものの、


「敵だ!敵が見えたぞ!」


 戦場中央のライアネン隊から、敵斥候の騎兵を確認する報がもたらされると、少し早いが、全軍を戦闘準備に移行させた。


 グレンダ軍が到着したのは、そこからしばらくしてからであった。

 砂埃を上げて、ゆっくりと行軍してくる様は、数の優勢を感じさせる堂々とした行軍であった。


「あら、斥候の報告だと、ここに河があったんじゃなかったかしら。」


「はっ。どうやらグレッテ卿の指示で河を塞き止めて、決戦をしやすくしたのかと。」


「関を切られたら大変じゃない。どう考えてるの?」


「はっ、この河の水位では、関を切られても問題にならないかと、ですが、一応、こちらで抑えらる様、小規模ですが、部隊を出しております。こちらが関を抑えるのも時間の問題でしょう。したがって、長時間河の中央にとどまるのは危険です。歩兵、騎兵ともに数が有利ですので早期決戦がよろしいかと。」


「そうね。では全軍に戦闘準備をさせなさい。さっさと終わらせるわよ。お風呂に入りたいのよ。前回みたいに、2日もここにいるなんて耐えられないわ。」


「はっ、全軍前進攻撃準備!」


 グレンダと副官は関を切られるのを考慮して、早期決戦を決意すると全軍へ攻撃の準備をさせた。


 マイトランドはイブラヒムを通じてアダムスに、敵の前進攻撃に合わせてこちらもゆっくり前進するように指示を出すと、戦列正面に回り、ライアネン隊正面に剣を突き出した。


 マイトランドが剣を構えると、ライアネン隊最前列も、各々剣を抜き、それぞれの盾の間から剣を突き出す。

 全ての剣が出たところで、騎乗した状態でライアネン隊左翼から、騎乗したまま、順に剣を合わせていく。


 カキン、カキン、カキン


 と音を立てながら剣と剣がぶつかり合う。最後に隊長のライアネンと剣を合わせると、


「では苦しい戦いになるが、頼んだぞ。ライアネン。」


「任せておけ。」


 ライアネンが頭を下げると、マイトランドはロンベルト隊の位置する最右翼に戻って行った。

 2人のこのやりとりは、数年来の友の様であったと後にフレデリカは語っている。


 グレンダ軍は全軍の攻撃準備が整ったところで、


「前進攻撃!」


 というグレンダ副官の合図で、全軍が徐々に河であった場所へと前進を開始する。足元がぬかるんでいるため、ゆっくりと前進をすると、それに合わせて、マイトランドも全軍に前進指示を出した。


 アダムが軍旗を左右に大きくに振ると、ライアネン隊は河であった場所への進入を開始した。1番隊から6番隊も陣形を維持するためそれに続いて進入を開始した。


 丁度、河の中央にライアネン隊がさしかかろうとしたところで、


「弓隊、魔法砲撃隊構え!」


グレンダ軍中央の弓部隊は、グレンダの副官が指示で矢を斜め上方に向け引き絞り、魔法砲撃隊が魔法を詠唱を開始する。続いて、


「放て!事後は歩兵が接触するまで各個に攻撃を開始せよ。いいか味方に当てるなよ!」


 そうグレンダの副官が指示を出すと、すぐに第一射目の魔法と矢がライアネン隊に飛来する。


「弓が来るぞ!盾を構えろ!上方防御!」


 ライアネン隊は三列目以降が盾を上に向けて構え、待ってましたとばかりに魔法障壁をジョディー隊が展開すると、魔法障壁に遮られることなく、音を立てて落ちてくる敵弓部隊の第一射を退けた。

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