第48話 第二次模擬戦 3

 弓と魔法の攻撃も、最初はうまく退けられたものの、2回、3回と回数が増えると、ライアネン隊にも損害が出始める。


「被害状況は?」


 アダムスが確認すると、大盾を上に構えたままライアネンは言う。


「ファランクス後方で矢を貰ったヤツがいるが、軽症だ。部隊全体には支障はない。」


「そうか、ならよかった。それにしてもすごい数の矢だな。」


「ああ、俺達は吐出している分、敵の後方部隊がいる全方向から飛んでくるからな。飛んできた矢だけで商売が出来そうだぞ。司令官殿はなんて言ってるんだ?」


 アダムスは念話でイブラヒムに確認を取ると、ライアネンにマイトランドの命令を苦笑いで伝える。


「て、敵ファランクスと接触まで前進だそうだ。」


「わかったよ。しっかしこりゃあ、”苦しい戦い”なんて生優しいもんじゃないぞ。お前の持ってる隊旗なんてもうボロボロじゃねぇか。」


 そう言いながらライアネンは矢を大盾で受ける。稀に敵部隊との距離を確認するため、覗いた時に生じる隙間から入ってくる矢が頬をかすめるも、しばらく前進を続けた。


 ガン、ガン、ガン、ガン、


 と言う大盾と大盾ぶつかり合う音と共に、ライアネン隊最前列が敵と接触すると、最前列を守るため二列目と三列目の半数が最前列の補助に回り、三列目の残りと、四列目がそれらをカバーするように上方の防御に徹する。


 敵との接触前には、隊形をかろうじて正方形に維持されていたファランクスが、敵との接触後一瞬で長方形になった。


「命令があるまで、押されるな。持ちこたえろ。」


 ファランクスとは密集陣形であり、過度の密集状態になった時の圧力は中心の者が圧死するほどであり、最前列の負担は計り知れない。

 ライアネン隊が接触した直後、イブラヒムを通じて、マイトランドが最初の後退命令を出す。


「全隊後退!」


 ライアネンがそう大声で叫ぶと、アダムが軍旗回すように振る。

 ライアネンがの号令で、まずは五列目が上に向けていた大盾を敵の方向に向け、構えなおす、それと同時に六列目が五列目の対空防御のため、カバーに入りそのまま後方4列が後退すると、前方の4列も併せてじわりじわりと後ろに下がる。


 目の前からいきなり敵が引くと、ぬかるんだ足元に足を取られ、敵の数名が転倒を始める。

 ライアネン隊は、そんな敵に目もくれずに、敵との距離を広げると、敵は敵で、転倒した者を踏みつけながら前進する。

 重装歩兵は基本的に鎧の重さから転ぶと中々起き上がれない。これは重装騎兵でも同様で、ここでは足元がぬかるんでいるため、その泥が付着し、余計に起き上がることができないのだ。


「前後列交代!」


 ライアネンが敵がもたつく隙を見て命令を出すと、先の4列と、後の4列を入れ替えた。

 矢や魔法が飛び交う中での、交代は非常に危険であるが、規律と統制のとれたライアネン隊は難なくやってのけたのだった。


 敵との距離が一定まで来ると、アダムがライアネンに伝える。


「ライアネン、全軍前進だ!」


「全軍前進!」


 アダムが軍旗を左右に振ると、敵も近くに寄っていた為、


 ガン、ガン、ガン、ガン


 と言う音と共に両軍は接触する。


 これを3~4回程繰り返すと、グレンダ軍は河中央に到達していた。


 戦列を維持するため、横一直線に部隊を展開していたグレンダ軍は、前進速度が上がらないことにしびれを切らし、奇策に打って出る。


「ライナーの予備騎兵を中央突破に使いなさい。」


「は、かしこまりました。」


 グレンダが命令すると、副官はライナー・クリシュマルド率いる予備騎兵15騎に、戦線中央の歩兵を蹴散らすため突撃指示した。


 だがこの行動は、すぐにマイトランドの知るところとなる。


 戦線中央後方に移動を始める敵予備騎兵15騎を、イーグルアイで確認していたためだった。


「イブ、ライアネン隊に騎兵の突撃が来る。無理に抵抗せず、大盾で道を作り、後方へ受け流す様伝えてくれ。突撃してくるタイミングは、接敵中の敵歩兵が離れて、矢が止んだ頃くらいだろう。」


「わかった。」


 イブはすぐさま念話でアダムにそれを伝えると、マイトランドは続ける。


「エリオット、ジョディー隊に行って騎兵突撃が来ると伝えてくれ。」


「了解だ!」


 エリオットは先の模擬戦から馬術スキルのみが発現し、馬に乗れるようになったので、伝令役に抜擢された。


 エリオットがジョディー隊に到着すると、マイトランドの読み通り、ライアネン隊に接触している歩兵が前進を止め離れると、矢が止み、歩兵の中央が開き、ライナー達騎兵15名が突撃を敢行した。

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