第49話 第二次模擬戦 4

 マイトランドの読み通り、敵前列歩兵が距離を取り、矢が止むと、ライナー隊がライアネン隊中央に突撃を敢行した。

 ライアネンは左側4列部隊を弟のクリードに任せ、自分は右側4列を指揮する。


「分断作戦だ!クリードそっちは頼んだぞ!」


「了解だ!」


 クリードは兄に返答すると、騎兵突撃部分にあたる中央列の左から4列目の大盾を70度ほどに傾け、右列に向けさせる。敵正面の一人は盾を斜めに向け、敵の矢、投げ槍などに備える。


 同様にライアネンも右から4列目を左側に向け、敵の中央突破に備えた。


 騎兵は通常突撃体制に移行すると、急な方向転換が容易には出来ないためだ。


「こりゃあいい。敵大将まで一直線だ。」


 ライナーがぼそりと呟くと、ライナー隊はそのアリジゴクの様に、ぽかりと開いた口に自ら飲み込まれて行く。

 途中途中で、うまいこと盾と盾の隙間にランスを突き刺し、ライアネン隊にも損害を与えるが、大した損害とはならずに、目の前にぶら下がる人参に飛びつくかのように、フリオニールのいる本陣を目指した。


 しかし、そのアリジゴクの出口に待つジョディーの一言で状況は一変する。


「まだだ。」


「まだだ。」


「今だ!パイクを上げろ!」


 前回の模擬戦で、パイクの脅威を知っていなかったライナー隊は、このジョディー隊のパイク攻撃の餌食となり、ほぼ全員落馬、もしくは戦闘不能に陥った。

 内1騎は、かろうじて難を逃れ、フリオニールの前に到達するも、フリオニールの剣技に翻弄されもたつく間に、ジョディーがフリオニールに付けていた、長槍兵の餌食となった。


 長槍の餌食になった幸運なその1名を除けば、そこからが、泥にまみれて身動きが取れなくなったライナー達にとっての真の地獄であった。


 マイトランドの指示で、分断作戦を解除すると、元の隊形に戻ったライアネン隊が後退を開始する。

 もちろんライナー隊を足場にしながら。


 前進、後退を何度も繰り返し4回ほどの前後運動が終わり、敵味方の両方が通り過ぎ、ライナー隊が太陽の元にさらされる頃には、ライナー隊の全てが戦闘不能状態になっていた。


「ライナー隊騎兵15騎壊滅!」


「ライナー。所詮は新貴族ね。使えませんわ。」


 この騎兵突撃の失敗を受けて、グレンダは無傷の部隊から8名ずつ引き抜くと、中央部隊に増員し、中央部隊を更に厚く編成し直し、中央突破を。


 そこからまた何度かライアネン隊が前進後退を繰り返すと、左翼の1番隊と右翼の4番隊が敵と接触する。この時すでにライアネン隊は8名が負傷、戦闘不能状態に陥り、戦線を離脱していた。


 マイトランドの司令により、ジョディー隊の長槍兵が8名、前列の大盾兵の補助に回るなどし、ライアネン隊の増員をするも、ライアネンがこれを拒否、56名でのファランクスで戦線を維持していた。


 そこからさらに4回ほど前進後退運動を続けると、1番隊左翼の2番隊、4番隊右翼の5番隊が接触した。その後また4回ほど前進後退運動を繰り返すと、3番隊、6番隊も敵と接触、歩兵戦列は、ほぼ横一線となり、両翼の騎兵戦に突入する。


「ロンベルト、敵の突撃をどの程度受け止められるか?」


「前列10騎くらいならなんとか。だがその後は攻撃には参加できん!かもしれん。」


「よし、わかった。前列以外全員馬から降りろ。敵を蹴散らすぞ。」


 マイトランドの号令で、前列10騎以外の40騎全ての騎兵が馬から降りると馬に付いていた鎖の先にある杭を地面に打ち込み、ある者はランスを、またある者は槍を手に持ち、敵騎兵の突撃を待った。


 敵の突撃の号令で、敵騎兵40騎は突撃を開始する。この突撃に前列の騎乗したロンベルトが全てのスキルを発動し、立ちふさがる。


「鉄壁、城塞、ベンジェンス。軍団強化。体力向上。」


 敵の突撃をロンベルトがダメージを受けながらも阻害すると、一気に速度を減速させられた敵左翼騎兵は、足元のぬかるみに馬が足を取られ転倒したりと、完全に騎兵をとしての機能を失ってしまう。


 騎兵はその速度と突破力が武器であり、その両方が失われた騎兵は、歩兵以下というのが通説である。

 当然こうなると、後方の馬を下りて長槍、ランスをもった者達の餌食となる。マイトランド軍右翼は部隊の展開できる幅があまりない為、最初の突撃さえ回避できれば、混戦状態になるため、下馬して歩兵戦に移行したほうが、圧倒的に有利である。


 一方のマイトランド軍、アーシュライト率いる左翼騎兵は苦戦を強いられる。

 僅かに10騎の左翼騎兵は、馬を降り、杭を打ち、その馬を盾にすると、敵騎兵の突撃をなんとか回避できた。という状況で、敵騎兵3騎がこのアーシュライト隊の防御を突破し、これを伏せてあった、長槍兵全員で打ち取り、後方に回られることだけは回避できたが、依然として32対20の数的不利をいかんともし難い状況であった。


 太陽が傾きかけた頃の戦況である。

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