第50話 第二次模擬戦 5

 フリオニール軍右翼は、数的優位やロンベルトの奮戦もあり、敵騎兵40騎の半数以上を蹴散らすと、マイトランドは劣勢の左翼部隊に救援の指示を出した。


「クリスト、急ぎ30騎率いて、味方左翼騎兵と戦っている、敵右翼騎兵をアーシュライト達の後方から襲撃してくれ。アーシュライト達を一人でも多く回収したら、そのまま敵歩兵の直協部隊の後背を突いてくれ。」


 戦闘開始以前からの作戦通りに、クリストは目前の敵に渾身の一撃を加える、押し返した敵に止めを刺すと、マイトランドに返答する。


「ラーケン殿の救援、承知した!私に続け!このまま後方まで離脱する。慌てるなよ!」


 クリスト以下30名は、地面に繋いであった馬の鎖を引き抜くと、ぬかるんだ地面から、騎乗できる場所まで移動し、騎乗をする。クリスト達は全員が騎乗を終えると、馬に拍車をあて左翼騎兵の援護に向かった。


 マイトランドは次に戦場中央に目を向ける。


 ライアネン隊はずいぶんと押し込まれ、それに付き添うように1番隊4番隊が後退し、その外側の部隊も緩やかに後退し、歩兵戦列は横隊から、弓形へと移行していた。


「イブ、ライアネンに、最初の河のラインまでは緩やかに後退を許可する。もう少し耐えろと伝えてくれ。しばらくしたら敵の遠距離攻撃が止むはずだ!」


 イブラヒムは、アダムスに念話で命令を伝えると、アダムスも隊旗を持ちながら戦闘に参加していたのか、少し遅れて反応が返ってきた。


「出来るだけ急いでくれ!とよ。」


「ああ、わかってる。わかっているが・・・。」


 マイトランドはそれだけ言うと、考えるのを止めた。そもそも、ライアネン隊が敵の攻勢に耐え、緩やかに後退することが、この作戦の前提条件だったからである。


 一方、アーシュライト率いる左翼騎兵は騎兵5名が戦闘不能、長槍兵8名が戦闘不能になるなど、兵力の大半を失ってはいたが、アーシュライトの獅子奮迅の活躍と、鎖でつないだ馬のおかげで、なんとか敵騎兵の突破だけは免れていた。

 そんな中、敵騎兵は、最初の突撃で失った兵力以外はぬかるんだ地面から引き返し、再度突撃の体勢に移行すると、アーシュライトも覚悟を決めたようで、


「もうだめか・・・。フリオニール様、申し訳ありません。ここまでです。」


 それだけ呟くと、覚悟を決め、ランスを構え、目をつむる。

 本当にもうだめだと、最左翼騎兵、長槍兵の全員が思った時、


「ラーケン殿、遅くなってすまない!救援に参りましたぞ!」


 大きな声と共に、姿を現したのはクリスト率いるクリスト隊、騎兵30騎の来援であった。


 クリスト隊は、崩壊寸前のアーシュライト隊の後背に馬を付けると、そのまま鎖でつないだ馬の間を抜けることができる様に間隔を取らせ横一列に整列した。

 アーシュライトは、突撃準備の為、下がった敵騎兵を確認すると、クリスト隊が突撃を仕掛けやすいように、馬の鎖を引き抜いた。


「全隊、突撃!突撃!」


 クリストの号令に、馬と馬の間を通り突撃を敢行するクリスト隊であったが、クリストだけは速度を緩め、アーシュライトに手を伸ばす。


「さあ、ラーケン殿。」


 クリストの手を取るアーシュライトを馬上に引くと、そのまま騎乗させ、生き残りの騎兵も騎乗を完了すると、


「フリオニール様のために!」


 そう言って突撃の第二波として、わずか6騎で敵に突撃を敢行した。


 新たな兵力の出現と、息を吹き返したアーシュライトの攻勢に、意表を突かれた敵騎兵は、勢いのついたクリスト達の突撃を正面に受けると、そのまま指揮官エルンストと、兵力の約半数を失い瓦解した。


「ラーケン殿、お疲れの所申し訳ないのですが、このまま敵直協支援部隊を叩きます。私の指揮下に入って下さい。」


 アーシュライトは、拳にぐっと力を込めると、


「戦線中央が持ちこたえているんだ。彼らに比べたら疲れなどどうと言うことは無い。卿の指揮下に喜んで入ろう。」


それだけ言うと、残存長槍兵をも余った馬に騎乗させ、クリスト隊に合流し、敵残存騎兵を殲滅し、敵直協集団の側面に回り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る