第53話 策謀 2
しばらくすると、ポエルに連行されライアネンがやってくる。
「マイトランド、こいつなんとかしろよ!無理矢理腕引っ張ってここまで連れてきやがったぞ。んで?何の用だ?俺達は今回敵のはずだぞ?」
「ああ、まあ、率直に話をさせてもらうが、俺達に寝返らないか?」
「俺達に寝返れだぁ?なんでまた?」
「ああ、攻略する方法を思いついたからだ。ライアネン達に敗軍にいて欲しくなくてな。どうだ?それに裏切るのはお前達だけじゃないぞ?」
ライアネンは少し考えると、口を開いた。
「見返りは?」
「ライアネン、お前、金は好きか?」
「好きも何も、嫌いなやつぁいないだろう?」
「では見返りはある。礼の金一封は全部やろう。前回の金一封は、先日の飯でもうないだろう?」
「おい、マジかよ。」
「ああ、ただし条件がある。前回、ライアネン隊に参加した班、全てを味方に付けろ。それとこれは他言無用だ。後はグレンダ軍の情報は逐一こちらに持ってくることくらいだな。いいな?」
「そんなの簡単だ。任せておけ。でもなんで俺達が情報を持ってこなきゃいけないんだ?他にもいるんだろ?裏切るやつがよお。」
ライアネンが話の矛盾に気付くと、マイトランドはすかさず答える。
「誰が、どこに、どの情報を持っているかなんてわからないだろう?それに平民に全てを伝える貴族なんて、ここにいる変人どもだけだ。」
「ってこたぁ、あれか?貴族も裏切るのか?お前やっぱすげー奴だったんだな。また司令官と呼ばせてもらうぜ。今回もよろしく頼む。」
「ああ、追って指示を出す。こちらこそよろしく頼む。」
マイトランドがそう言うと、ライアネンはスキップをしながら自室へ戻って行った。
「なんかすげえ喜んでたな。ライアネンってあんな気持ちの悪いヤツだったか?」
ランズベルクがマイトランドに尋ねると、マイトランドは笑って答える。
「それだけこっちに、勝つ可能性を見い出せたってことだ。良い事だろ?まあ、地獄の沙汰も金次第って言うだろ?」
「ペテンじゃねぇか。ウソばっかり言いやがって。誰が他に裏切るんだよ!」
「これからどんどん増えるさ。まぁ、見てなって。」
今の所、ライアネン以外に離反する者がいないのだから、ランズベルクの言は正しい。
しかし、フリオニールとフレデリカは二人の会話を聞いて何を思ったのか、
「離反をさせるとは卑怯極まりないではないか!私達貴族までそんな卑劣な作戦に巻き込むとは!」
「そうだ!グレッテ卿の言う通りだ!いかに負け戦であっても、卑怯者と後ろ指は指されたくはない!」
そんな二人の言葉に頭を抱えると、マイトランドは大きく息を吸い込み、それを吐き出すように言った。
「おい、お前ら、いいか?貴族貴族と声を大にして言うなら、貴族だけで戦争をしてみろ。実際戦うのは、いっつも平民である俺達だろう?お前らの言う騎士道精神だか、貴族精神だか、なんだか知らんが、それを敵も守ってくれるのか?守ってくれないだろ?考えろ!どうやったら勝てるかを!任せるな!頼るな!俺達は戦争してるんだぞ!!」
マイトランドが叫び終わると、フレデリカは黙ってしまった。
フリオニールは思うところがあったのか、
「だが、私は、正々堂々と戦いたい。」
「そうか、それなら今回は負けよう。大将たるフリオニールがその調子じゃ、勝てる訳がない。俺は降りる。解散だ。帰ってくれ。」
マイトランドがそう言ってフリオニールに背を向けると、今まで黙っていたロンベルトが口を開く。
「フリオニール様・・・。子供の様な事を言ってはなりません。フリオニール様は、平民をお守りになるという志がありますね?その守るべき平民であるマイトランドが、フリオニール様の軍を勝たせるために、奔走しているのです。なぜその手を振り払う様な真似をなさるのですか。マイトランドの手をお取りなさい。彼はフリオニール様の大事な作戦参謀でしょう。それに調略は立派な計略です。お忘れになりませぬな。」
フリオニールはロンベルトに言い諭されると、少しの間、下を向き沈黙すると、上を向き、マイトランドに正対し、深々と頭を下げた。
「私が間違っていた。ロンベルトの言う通りだ。マイトランド、また私に力を貸してはくれぬだろうか。」
マイトランドは振り返ると、深々と頭を下げるフリオニールを見て、
「ああ、いいぞ。その代り、勝つためには何でもするぞ?それと参加した全員に恩賞を出せよ?もちろん俺にはいらない。宗教上の理由でな。」
フリオニールは目に涙を浮かべながら、マイトランドの手を取ると、答える。
「方便か?」
「宗教のところは方便だ。よし、作戦会議をするぞ。」
そう言うと、マイトランドまた不敵な笑みを浮かべて言う。
「次の目標はライナー・クリシュマルドだ。こいつを調略する。」
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