第71話 1章最終話 最前線へ 2

 営門に到着すると、2人は思いがけない人物と遭遇する。


 もう新兵教育隊を出て行ったはずの、フリオニールであった。


「おお、2人とも、今帰りか?出発は明日だったな?」


「ああ、それよりなんでまだここにいるんだ?まさか俺達を待っていたのか?」


「ああ、それなんだが、恥ずかしい話、自分の鎧を無くしてしまってね。探していたんだ。」


「なんだ。そうだったのか。で?あったのか?」


「うん。無いんだ。どこを探しても見つからなくてね。皆に迷惑をかけるといけないからね。もう行くことにしたよ。鎧は見つかったら送ってもらうことにした。」


 ランズベルクがスナイダーにフリオニールの鎧を渡したのだ、当然ある訳がない。

 だがこれに関しては止めなかったマイトランドも共犯である。


「鎧、あるといいな。じゃあ俺達は行くよ。じゃあな。」


「なんだ、折角だ、もう少し話さないか?」


「何か話すことでもあったか?お前は偉くなって、平民を戦場で救うんだろ?こんなところで無駄話をしている暇があるのか?」


「そうだな。マイトランドの言う通りだ。すまなかった。もう行くことにするよ。すぐに会えそうだが、またどこかで会おう。」


「ああ、またな!」


 フリオニールは寂しそうに肩を落とすと、営門から出て行った。


「マイトランド、危なかったな。でもスナイダーには悪いことしたぜ。」


「フリオニールにじゃなくてか?スナイダーは荷物に紛れていたとでも言うだろうさ。」


「フリオニールはいいんじゃないか?新兵教育にあんな家紋入りの鎧持ってくるバカがいるかよ。貴族様にはいい薬になったぜ。」


「なんにしても明日だな。第2軍はグレイグの言ってた通り恐らく劣勢だ、補給物資と兵員の補充が急務だろうよ。」


「そうだな。まあマイトランドがいれば大丈夫だろうぜ。どうせなんとかするんだろ?」


「いや、俺もランズベルクがいるから楽に動ける。とにかく明日だな。他の新兵教育隊からも兵士が集まって、一個の部隊として移動するからな。」


「そうだな。」


 アツネイサ、イブラヒム、アダムス以外は皆の居なくなった部屋に戻ると、ポエルが遊びに来る。


「今日、ここで寝る。ポエルの部屋誰もいない。」


「そうか、いいんじゃねえか?皆で話でもしながら寝ようぜ。」


 少なくなった班員と、雑談をしながら眠りについた。


 ---


 翌朝。


「貴様ら!起きろ!点呼だ!」


 大声でマイトランド達を起こすのは、あのドワイト班長であった。


「はい?班長、新兵教育は終わりましたよ?」


 マイトランドがそう言うと、マイトランドの頬を思いっきり叩き、


「貴様ら、俺が次の部隊での上官だ!貴様らはドワイト分隊だ。わかるか?」


 そう、マイトランド達は、第2軍、第2軍団、第198騎兵連隊、偵察中隊に属する、強行偵察分隊ドワイト分隊として配属されるのだ。

 分隊は通常8名以上の編成となるが、マイトランド達は、マイトランド、ランズベルク、アツネイサ、ポエル、イブラヒム、アダムスと6名だ。つまりあと2人以上は追加編成があるのであろう。


「おい、マイトランド、またこのおっさんと一緒かよ。疲れるぜ。まさか前線部隊に行っても台風とか罰則とかないよな。」


「俺はこの人結構好きだぞ。色々と助けられたしな。」


 台風と言うのは新兵の部屋を班長達によって荒らされることであるが、これは班長達の憂さ晴らしに近い。それに基本命令違反、服務違反等を犯すことが無ければ、部隊では台風や罰則されることは無い。


「班長は歩兵部隊ではないのですか?」


 アダムスが聞くと、顔を真っ赤にしたドワイトがアダムスの頬を叩き答える。


「この兵科徽章が見えんのか!!このグズが!歩兵科から騎兵科に兵科転換させられてしまったのだ!それに俺は班長ではない!分隊長と呼べ!」


 ドワイトの胸に付けられた兵科徽章は、以前つけていた歩兵兵科の物ではなく、騎兵兵科の物であった。

 

「兵科転換ってそんなに簡単に出来るものかよ。」


 ランズベルクが呟くと、ドワイトは話を中断するため、準備を急がせる。


「階級は上がったがな。そ、そんなことはどうでもいい。早く準備をしろ。」


「はいはい、わかりましたよ。班長様。」


「分隊長だ!貴様は耳が付いてないのか!」


「イエッサー。」


 マイトランド達が悪態をつきながら準備を終え、外に出ると、そこには多数の兵士が軍服を着て集結していた。


 各地の新兵教育隊から集まった約5000人1個師団ほどの新兵は、引率者に伴われ、一堂に会する。


 もちろんマイトランド達の配属されたドワイト分隊にも新たに仲間が加わることになる。


 ミシェル・サランドン、黒い長髪の好青年。


 トーマス・アルジェント、背は高いが、横に狭い。ひょろひょろノッポのブロンドの短髪青年。


 セリーヌ・シンクレア、金髪の髪の毛がきれいな、女性新兵だ。何かの理由で志願したのだろう。


 以上3名を加えてのドワイト分隊10名として戦線へ赴くこととなった。


「分隊長、俺達騎兵隊なのに、騎兵はないんすか?」


「ランズベルク、貴様はバカか。貴様の様な新兵に、貴重な馬が与えられるわけがなかろうが。一度死んでから出直して来い。」


 ランズベルクは馬を持ってきたほうがよかったと、マイトランドを睨みつける。


 前線までの行程は約3週間。徒歩による移動となる。


 道のりは長いが、戦場で武功を上げれば、すぐに昇進だ。マイトランド達は新しい軍服に身を包み、期待に胸を高鳴らせながら進む。


 戦場に到着すれば、ウェスバリア歴210年も1ヶ月ほどで次の年を迎えることになる日の出来事であった。

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