第70話 1章最終話 最前線へ 1

 マイトランドとランズベルクは、基地営門を出ると、真っ直ぐにグレイグのいる参謀本部へと向かった。


 基本的に軍では、一部の下士官を除き、佐官である少佐以上の職責ある軍人は、個別に部屋を与えられている。

 当然のことながら将官であるグレイグもまた、副官と、参謀本部の隣に勝手に使える部屋を与えられている。

 中将室の前には、副官室があり、この副官がグレイグの予定、面会者などを管理してる。

 

 ランズベルクは副官を無視し、部屋に入るなり大声で叫ぶ。


「グレイグ、預かってもらってた武器、取りに来たぜ。いよいよ俺達も前線勤務だぜ。」


「久しぶりだな。武器はいつもの所にある。勝手に持って行くと良い。」


 マイトランド、ランズベルク共に、このグレイグに対して近所のおじいちゃんに話しかける様に話すものだから、副官としてもいたたまれない。


「お前達は、どこに配属になったのだ?」


「ああ、俺もマイトランドも第2軍の偵察中隊だぜ。参謀本部は何でも知っていると思ったんだけど、そうじゃないのか?」


 ランズベルクがそう思うのも無理はない。作戦の立案時、練度の低い新兵がどこに配属されるか、というのは非常に重要なことになる。

 個人の情報は把握できないとしても、最低でも教育隊単位では知っているものだろう。

 いかに模擬戦をしているとは言え、人を斬る、撃つなどの経験がない新兵は、戦場に置いて敵に対峙すると、躊躇い、戸惑い、足や手、指が震えるものだ。


 「第2軍か・・・。あのな。新兵教育隊には発表していないが、第2軍は、相当辛い戦いになるぞ。」


 グレイグが、バツが悪そうに答えると、マイトランドはそれを察しランズベルクに諭した。


「そんなことだろうと思ったよ。あの発表だからな、大体は想像がつく。ランズベルク、武器と防具を取ったら行くぞ。」


「ああ、もう準備は出来たぜ。」


 ランズベルクが軍服の上からレザーアーマーを身につけると、盾を背負い、剣を腰に下げると、ピョンピョンと飛び跳ねながら、装備の具合を確認する。


「この鎧はいいぜ。しっくりくる感じだぜ。フルプレートってヤツを模擬戦で着たがありゃ邪魔なだけだ。」


「当たり前だろう。お前達の為にと必死で選んだのだからな。死ぬんじゃないぞ。」


 ランズベルクの胸当てをポンポンと触りながらグレイグは、そのアーマーを買ってもらった経緯を思い出す。


 マイトランドは、グレイグの用意した、短筒をホルスターにしまうと、火薬、弾の入ったベルトもホルスターに括り付ける。そしてオルメア、グレイグ2人の、ミスリルの短剣を腰からぶら下げた。


「新兵教育の間半年経つけど、この銃、新式じゃなくなってるんじゃないのか?大丈夫か?」


「あの時出たばかりの物を買ったからな。大丈夫であろう。失礼なことを言うな。」


「そうか、ならいいんだ。これをヨーゼフ・アルファイマーってヤツが取りに来るから渡してもらえるか?」


 マイトランドはそう言って、グレイグの机の上にホルスターとベルトを置くと、グレイグはそれを触り、驚いた様に答えた。

 

 「なんだ?新しい仲間か?」


 「ああ。誰かの差し金だろう。新貴族のくせに俺の部下になりたいらしい。」


 「アルファイマーというと、アルファイマーの息子か。そうかそうか。開発か。全く使われずに新しい物になるというのもおかしな話だが・・・。わかった渡しておこう。」


 「やっぱり知り合いか。貴族達の間で、やたらと俺達の情報が出回っていたからな。まあいい、俺達はもう行くよ。」


 そう言って部屋を出ようとすると、グレイグはマイトランドの肩に手をかけ引き留める。


「で?首席だったのか?」


「発表されなかったからな。分からん。だからグリルファウスト大将の所には行けないな。まあ気長にやるさ。」


「そうか、後で新兵教育隊に確認をしておこう。もし首席であれば、近いうちに辞令が出るはずだ。それまで死ぬなよ。戦場には、私から手を回しておこう。」


「ああ、辞令はランズベルクと二人一緒に頼むよ。じゃあ、またな、グレイグ。」


「補充人員と補給物資をしっかり届けてくれ。たのんだぞ。」


 そう言って、2人を笑顔で送り出すも、発表されなかったのは、平民が首席であったからに他ならならないだろうと、グレイグは予測し、副官に今回の新兵教育隊の成績を調べる様に厳命する。


 マイトランドとランズベルクは、司令部を出ると、そのまま新兵教育隊のある基地に向かった。

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