第177話 トレーナ攻略戦 中編 5
時系列は、カルドナ王国軍第4軍混成団の進発後まで遡る。
カルドナ王国軍第15近衛騎兵連隊を迎え撃つため、進行ルートであるクミアーナ西側の予備陣地へと移動を終え、進行経路上にパイクによる罠などを多数設置し、キスリング連隊各砲班は迎撃準備を完了した。
マイトランドは、冒険者で構成された中隊を2つに分けると、交戦の予定が無く偵察のみを主たる任務とした30名編成の部隊を偵察に特化したアツネイサに率いさせ、これを第72騎兵師団の侵攻ルートに配置、もう一方の220名は、ポエルに率いさせると、敵第15近衛騎兵連隊後背に配置できるように、進行経路へと潜ませると、冒険者中隊の初期装備である魔導通信機を使い第15近衛騎兵連隊へと通信、連隊進行経路上に敵影はないとの報告を逐次行っていた。
第15近衛騎兵連隊長フィリベルト・バラティエリ大佐は、冒険者中隊の報告に多少の安堵はしたものの、過去に少数の敵斥候部隊の目撃情報もあった他、味方歩兵大隊の壊滅報告などから、軍人でない冒険者中隊の敵情偵察は不十分であるとの認識を崩さず、連隊前衛第1大隊に頻繁に警戒を出し常に警戒を怠るなと厳命、これを実施させた。
しかしながら第1大隊長である貴族セバティアーノ・アオスタ少佐は、冒険者中隊から随時齎される詳細な敵情報告に満足しており、連隊長のこの命令を敏感になりすぎていると判断、来たる敵補給部隊への急襲時に備え、将兵を休ませるなど警戒を独自の判断で命令の半分以下に抑えていた。
通常の騎兵よりも重装備である第15近衛騎兵連隊は、クミアーナに近づくにつれ急になる傾斜に、連隊長であるバラティエリ大佐は、連隊員全員の安全を考え騎乗状態であった連隊前衛の第1大隊、第2大隊を下馬させると、馬を引きながらの行軍状態へと移行、続く第3大隊から第5大隊にも同じ様に命令し下馬させた。
マイトランドはこの第15近衛騎兵連隊の下馬による行軍速度の低下を見逃さなかった。
即座にキスリング大佐と協議すると、連隊砲班に砲撃開始を指示、前進観測班と伏兵を兼ねる冒険者中隊の誘導により試射を開始すると、修正値を元に効力射により敵第15近衛騎兵連隊へと打撃を与えるべく効力射を開始した。
一方でバラティエリ大佐は、試射の段階で敵の伏兵である魔導砲兵の存在を確認すると、連隊各大隊に散開を命令する。
散開により、次の効力射に備えることができた第15近衛騎兵連隊は、飛来した魔力火球の数から、敵を大隊から連隊規模と予測。
伏兵の恐れはあったものの、バラティエリ大佐は自身が先導し、第1大隊から第4大隊に騎乗を命令すると、敵砲陣地と思われる魔力火球飛来方向へと狭く急な経路を散開しつつ進軍した。
叩き上げのバラティエリ大佐は、セオリー通りに第5大隊だけは予備戦力として、又連隊全体の退路を確保するため後方へと下がらせた。
この第15近衛騎兵連隊の動きを察知したキスリング連隊は、マイトランドが事前に示した通り、敵が眼前に迫るまでは敵の後方に下がった部隊に砲撃を集中し、敵前衛部隊が砲陣地に到達するのを待った。
ここで敵と共に前進し、最終的に砲陣地東側の木の上で敵を観察しながら指示を待つポエルに、マイトランドは魔導通信機を取った。
「ポエル。弓が使える者に、こちらに向かう敵部隊の各部隊指揮官だけを狙わせてくれ。ポエルは連隊長だ。頼んだぞ。」
「ん。わかった。でも連隊長どれ?わからない。」
敵の指揮系統を乱すため、指揮官だけを狙う様に伝えたポエルに対し魔導通信機を片手に指示を出すマイトランドは、少し頭をかしげると敵の部隊名称を思い浮かべながら答えた。
「近衛騎兵だからな。一番装飾品が豪華で一番偉そうなヤツ。それが連隊長だ。」
「ん。わかった。任せて。もう見つけた。」
ポエルはそう返答すると、魔導通信機を腰に戻し、矢羽と共に弓の弦をいっぱいに引くと、敵の指揮官に向け解き放った。
ポエルの放った矢は、恐ろしいほど正確に獲物の目を射抜くと、獲物の周囲からは、側近が獲物の死と刺客の存在を大声で叫んだ。
「大隊長が!!アオスタ少佐が狙撃された!!敵が近くにいるぞ!全員その場に伏せろ!!」
ポエルはその大声にビクリと体を震わせると、ぐるりと辺りを見回しながら、自身が刈り取った獲物よりも更に装飾品が豪華な指揮官を探した。
しかしながら敵の指揮官が伏せた後であり、発見できないことから自身の失敗を悟り、魔導通信機をとった。
「マイトランド。ごめん。失敗。連隊長を射抜いたつもりが・・・。大隊長だったんだって。それでね。敵が伏せちゃった。連隊長がどこにいるかわからない。」
「あ、ああ。そうか、なんか説明不足でごめんな。でも良くやってくれた。適当に狙撃しながら射撃の観測を頼む。」
「ん。わかった。」
マイトランドの本来の予定であれば、連隊長を狙撃し敵連隊の指揮系統を麻痺させるつもりであったが、敵がその場に伏せたと報告を受けると、各砲班に射撃目標の変更を伝え、効力射により敵前衛部隊全域に魔力火球の雨を降らせた。
この効力射により、敵第15近衛騎兵連隊前衛右翼に配置されていた第1大隊と第2大隊は、弓だけを警戒しその場に伏せ、遮蔽物に身を隠さなかった為、その半分が壊滅した。
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