第178話 トレーナ攻略戦 中編 6

「どうだ?敵の砲陣地の位置は判明したか?」


「それが・・・。魔力火球の飛来方向から方角のみは判明しているものの、まだ詳細は確認できておりません。バラティエリ大佐、敵は既に我らの進行経路上に陣地を構築しているものと思われます。72師団に増援を要請しここを突破するか、迂回してはいかがでしょうか?」


「馬鹿な事を申すな。我々騎兵が・・・それも国王陛下直属の近衛隊である我々が、鈍足で遠距離での攻撃しかできない砲兵にやられそうだとでも言えばいいのか?少しは考えて物を申せ。」


 カルドナ王国軍第15近衛騎兵連隊を統率するバラティエリ大佐は、慎重かつ状況判断能力は高い男であるが、プライドはそれを凌駕するほどに高い男である。

 事実、飛来した魔力火球の量から敵はおよそ大隊か連隊規模と既に予測しており、砲弾と伏兵により多少損害は出たものの、自身の騎兵連隊であれば十二分に対応でき、伏兵もまた損害の量から少数と予測していたが・・・。


「ですが、敵は伏兵がいると考えられます・・・。」


「そうだ。だが小隊単位の少数だろう。現に弓による狙撃などと小賢しい手を使っておるではないか。位置を秘匿すれば、砲兵とて騎兵を倒せるとでも考えたのであろう。だが相手が悪かったな。」


「ではどのように致しましょうか。」


「私の合図で全連隊員を騎乗させ、然る後に砲弾の飛来方向へ全速前進、敵発見と同時に突撃をかける。肉薄すれば砲兵など取るに足らん相手だ。全軍に周知、徹底せよ。」


 何度も正確に飛来する敵砲弾を目に、言い知れぬ不安に押しつぶされそうになりながら副官は連隊全員に連隊長命令を周知すると、完了の報告を受けたバラティエリ大佐は、満を持して胸元の笛を2度戦場に響かせた。


 笛の音に第15近衛騎兵連隊は全員が騎乗すると、位置を正確に把握し、一定の間隔で飛来する魔力火球の発射方向に前進命令を発した。


「前進せよ。」


 この第15近衛騎兵連隊の行動開始に、キスリング支隊連隊本部は敵指揮官狙撃の任についていたポエルが、自身の魔導通信具を2度ほど鳴らし敵の移動開始を知ると、念入りに構築した砲陣地正面に、周囲から伐採した逆茂木を設置し、水球魔法で逆茂木を配置した場所一面に泥濘を作り敵の到来を待った。


 そこから更に10分ほどであろうか、カルドナ王国軍第15近衛騎兵連隊前衛が損害を出しながらも敵キスリング連隊砲陣地を発見すると、いち早く連隊長であるバラティエリ大佐に敵陣地発見の報はもたらされた。


 この報にバラティエリ大佐は罠とも知らずに軽くほくそ笑むと、部隊の後方に立ち連隊全体に突撃を下命した。


「突撃せよ!」


 丘陵頂上部付近に陣取るキスリング連隊砲陣地までは、斜面ではあったものの、突撃を敢行するには問題のない程の傾斜であり、度重なる正確な魔導砲撃に数と士気を落とした連隊は、命令に従い馬に鞭を入れるながら突撃を開始した。


 ところが、突撃を下命してからいくらも経たないうちに、連隊の突撃速度は徐々に遅くなりついには停止にまで至ってしまった。


「むむ?なんだ?傾斜の為か?速度が落ちたな。敵の砲撃は苛烈なれど、肉薄すれば何のことはない。貴様、前衛を見て参れ。」


 部隊最後尾に位置するバラティエリ大佐は、突然の著しい突撃速度低下に驚くと、馬を止め、傍にいた副官を前衛に差し向けた。


 ---


 騎兵の最大の長所は、速度からなる密集体系によるその中央突破力である。


 突撃命令を受け、勢いよく敵に前進する第15近衛騎兵連隊残存2000余。しかしながら、キスリング連隊砲班が敷設したぬかるんだ地面で構成された傾斜で速度を奪われ、枝葉のついたままの逆茂木により各個分断され突破力をも失った騎兵は、各大隊の部隊指揮官を狙撃されていたこともあり、長所の全て奪われて丸裸同然にされていた。


 そこへ準備万端整えたキスリング連隊からの短筒や弓による射撃と、近距離での雷系魔法による魔導砲撃での感電である。重装鎧を着こんだカルドナ王国軍第15近衛騎兵連隊は、数刻と経たぬうちに崩壊した。


「こんなはずでは・・・。」


 連隊長バラティエリ大佐以下最後尾の幾人かは、難を逃れその場から逃げることは出来たのものの、敵の逃亡に備え逃亡予想経路上に伏せていたポエル以下で構成される冒険者中隊の餌食となり、その生涯を終える羽目となった。


 マイトランド達キスリング支隊は、残敵の掃討を終えると、敵近衛騎兵隊から装備品を剥ぎとり、砲班の半数をもってその装備品を、支隊主力にあって位置を秘匿するシャンタル連隊へと輸送した。

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ウェスバリア戦記~俺、平民だけど、軍師になるわ。~ RL→← @RL03041215

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