第23話 模擬戦 2

 マイトランドは、アツネイサからの騎兵の情報を受けると、初期の段階での騎兵との交戦を想定してなかったことを悔やみ、すぐさまアツネイサにランズベルクとの交代の指示を出し、各作業場へと向かった。


「皆、敵がすぐ傍まで来ている、出来るだけ音を立てないように作業をしてくれ。」


 同じ国の軍人なのだから、“敵”という表現もいささかおかしいような気もするが、この戦場では確かに“敵”である。


 各作業場は、工程の9割は作業が終了しており、二つ返事で了承した。


 マイトランドはその後、ジェイク、ジョディーを作業から外すと、装備を整えさせ、2人を伴い、陣地正面へと向かいランズベルクの帰還を待った。


「おい、マイトランド、なんでお前そんなに勝ちに拘るんだ?」


 ジェイクの問いにマイトランドは笑いながら答える。


「なんでも何も、罰則、受けたくないだろ?」


「罰則か、お前はさぁ、罰則は何とも思ってないように思えるんだよな。他に理由があるんだろ?」


 ジェイクの返答に、マイトランドは少し考えると答える。


「うーん、隠してもしょうがないから言うよ。俺は、軍師になりたいと思っているんだ。だからさ・・・。」


 そこまで言い終わると、ジェイクが話を遮る。


「お前は利口なのか馬鹿なのか。平民の俺達が軍師になんてなれる訳ねえだろ。生まれ持った地位が、人生を決めるってオヤジが言ってたぞ。俺達平民は、一生平民だ。」


「まあ、落ち着け、何も俺は貴族になりたいわけじゃない。話を最後まで聞いてくれ。」


「あ、ああ、わかったよ。」


「先ず、この模擬戦、練度を確かめるなんてことを言っているが、それは嘘だと思うんだ。正面衝突で、平民の装備で、貴族のあの重装備を打ち破るなんてことは不可能だろ?」


「ああ、でもお前は、それをやろうとしているんだろ?不可能なことが可能になるとは思えないけどな。」


「過去の結果を見るとそうだな。だから考えたんだ、この模擬戦の真意がどこにあるかを。」


「どこにあるんだ?わかるように説明してくれ。」


「うん、俺は平民の恐怖心を削ぐためじゃないかと思っている。2回目からの模擬戦はどんなものか知っているか?2回目からは班対抗ではなく、団体戦だ。過去の模擬戦を見ると、最初の模擬戦で突出した成績を収めた貴族班、または新貴族班が、2班敵に分かれて、それぞれ平民と残りの貴族たちを指揮して模擬戦争をするんだ。な、ジョディー、そうだろ?」


 ジョディーは、自分に話が振られるとは思っていなかったのか、へ?と変な声をだし反応する。


「兄貴から聞いたけどさ、あたい、あんたに話したことあったかな?」


「ないな、過去の資料を見ただけだ。」


「んで?話の続きは?あたいも聞いてるんだからさぁ。」


「ああ、そうだったな。今回の模擬戦は大将にする班を見ているだけで、平民への関心は基本的に無いんだ。逆を言えば平民班が、貴族班を破る活躍をするなら今回しかないってことだ。」


 そこまでマイトランドが話すと、ジェイクが反応する。


「だからってことか。でもよ、俺達平民の恐怖心なんて、削げるものかよ。」


 そんなジェイクにマイトランドは苦笑いで、


「ああ、削げるさ、一部はな、でも逆に恐怖心を高める者も出てくるだろうな。でもそこはお偉方の考えだ、おおかた一回死に目にあえば、全員死兵になって恐怖を感じないとでも思っているんだろう。」


 そこまで話すと、マイトランドは神妙な顔つきになり、


「騎兵だ。1騎か。」


 マイトランドの気配察知に騎兵が引っかかる。


「方角は?あたいには見えないよ。」


 ジョディーが周辺をぐるりと見渡した後で、マイトランドに尋ねると、マイトランドは北西方向を差し、答える。


「この方角だ、真っ直ぐこちらに向かっている。ジョディーは皆に伝達してくれ。終わったらすぐに戻って来てくれると助かる。」


「ああ、わかったよ。」


 そう言ってジョディーはその場を後にした。


 ジョディーが伝達に向かってからしばらくすると、木の上から、シュウがマイトランドに石を投げて、騎兵の到来を告げた。


 数は1騎、周囲に敵影はないとの事。


 ジョディーが戻ってくると、騎兵は3人の目にも見えるほどの距離に近づいていた。

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