第24話 模擬戦 3

 明らかに自分たちの陣地に近づいてくる騎兵1騎にマイトランド、ジョディー、ジェイクの3人が身構えると、ジェイクが口を開く。


「なあ、あいつこっちに気付いてるんだよな?なんで剣を抜かないんだ?それに槍も持ってないぞ?」


 ジェイクの言う通り、例え森の中で3人が伏せている状態だったとしても、30mほどの距離であれば馬上の騎兵に見えないことはないだろう。


「あんた、馬鹿だね。あたいにはわかるよ。こっちを油断させようとしてるのさ。貴族様のやりそうなこった。」


 ジョディーが自信満々に言うと、ジェイクは顔を真っ赤にして怒る。


「2人とも、喧嘩はやめろ。それより攻撃してきたら、ジェイクがタウント、俺が馬上のヤツを落とすから、馬をジョディーが奪取してくれ。」


「「わかった!」」


 3人は武器を構え、立ち上がる。騎兵が更に近づき、マイトランド達との距離が10mほどに達すると、その騎兵は馬の手綱を引き、マイトランド達に気付いた様子でその場に止まると、


「こちらに交戦の意思はない。」


 両手を上げて、そう言った。


「明らかに女の声だな。特段油断させようとしている様には感じない。」


 マイトランドが2人に言うと、ジョディーがその言葉に反応し、アダムとイブが、竹製の避難梯子を利用して作った弓を構えながら、大声でその騎兵に言った。


「おい、あんた、あたいらを、平民だからって舐めてるんだろ。そうはいかないよ。」


「いや、そうではない。この通り武器は持っていないだろう。伏兵もいない。信じてくれ。こっちに来て確認してもいい。」


「信じろって言って、あたいの村から沢山の税金をいつも巻き上げるじゃないか。」


「いや、私は新貴族だ。領地は持っていないし、税金も巻き上げてなどいない。父も元は平民だ。」


 騎兵の言葉にジョディーが黙ると、今度はマイトランドが、


「じゃあ、何の用があって来たんだ?」


「私は・・・。」


 騎兵が言いかけたところで、ランズベルクが戻ってくる。

 ランズベルクは戻ってくるなり小声で、


「マイトランド!戻ってくる途中で確認したが、騎兵が19騎この先の窪みで待機してるぜ!」


そこまで言うと、ようやく騎兵に気付いたのか、今度は緊張感なく大声で続ける。


「んで?こいつはなんだ?ジョディーにビビって両手を上げてんのか?面白い騎兵だぜ。なぁ、マイトランド、ジョディーの矢なんて、この距離じゃ当たりっこないのにな。アッハッハ。」


笑いながらそう言ったランズベルクに、ジョディーは矢を向ける。


「あんたねえ・・・。」


そうジョディーが言いかけると、騎兵が話に割って入る。


「お前、マイトランドと言ったのか?私はマイトランドという男に会いに来たんだ。誰がマイトランドなんだ?」


「俺だけど。」


騎兵の言葉に反応し、マイトランドが手を上げると、


「父の茶色い馬を貰わなかったか?なぜ乗っていない?」


そこまで言われて、マイトランドもピンと来たようで、


「お前、フレデリカ・アレクシスか?」


そう言うと、その騎兵が兜を脱ぎ答える。


「そうだ。」


返事をしたフレデリカ、金髪碧眼で、切れ長の目が特徴的な美人は、かつて、マイトランドとランズベルクが持って帰った首の主、ウェリステア第1軍司令官だったフランコ・アレクシス将軍の娘だった。


「おい、すっげー美人だな。マイトランドよぉ、こんな美人が知り合いにいたのかよ。なんで紹介してくれないんだよ。」


ランズベルクの言葉に、マイトランドはため息交じりで返す。


「はぁ、忘れたのか。俺も会ったことはないけど、お前も知っているはずだ。」


「俺が?知ってる?なんで?こんな美人忘れる訳ないだろ。」


「もういい。後で説明するから。ちょっと今は黙っていてくれ。」


マイトランドはそう言うと、ランズベルクが黙ったところでフレデリカに続ける。


「で?その新貴族様が何しに来た?」


「ああ、礼を言いに。」


「礼ならもう貰った。俺には特段用はない、帰って戦いに備えろ。」


 素早いマイトランドの返しにフレデリカは、


「あの、その、それが・・・。」


「なんだ、礼を言いに来たんだろ。もう終わったんだから、とっとと帰れって。」


フレデリカは少し黙ると、地面の土を右足で何度かいじり、恥ずかしそうに口を開く。


「き、き、協力してほしいんだ。実の所、困っていてな。貴族班、新貴族班共に協力して戦おうと言う気が無いみたいなのだ。それに、グレイグおじ様に、困ったときは平民のマイトランドを頼れと言われている。なんとかしてはくれないだろうか。」


「はぁ?お前正気か?俺達は敵同士だろ?グレイグは普段の生活で困ったらと言う意味だろう。帰れ帰れ!」


「そう言わずに聞いてくれないか。こうして恥を忍んで来ているんだ。どうしても上位に入りたい。協力してくれ。」


 マイトランドは、ため息を一つつくと、


「ランズベルク、残りの騎兵も呼んで来てくれ。多分全員騎兵ではないから、馬から降ろして連れて来ればいい。」


「なんでだ?馬から降りたら騎兵じゃないだろ。」


「多分だが、全員女か馬に乗れる者が少ないんだろう。そもそも馬に乗れる者がいない可能性もある。」


「わかったよ。」


 ランズベルクが返事をすると、フレデリカが驚いた顔で、


「なんで知っている?私は言った覚えがないぞ。」


「考えればわかるだろ。もういい、馬に乗ってこっちに来い。」


 結局、マイトランドは馬に乗れないであろう騎兵19騎と、騎兵を1騎抱え込むことになった。

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