第25話 模擬戦 4

「だって、だってしょうがないじゃないか!戦ったことなんてないんだから!」


 マイトランドが理由を尋ねると、さっきまでの威勢はどこ吹く風とフレデリカは泣き出し、マイトランドは動揺する。


「いや、別に責めている訳じゃないんだ。それに俺だって実践の経験はない。」


「うぇ、ひっ、早く偉くなって、父の敵が討ちたいだけなんだ。協力してくれ。頼むよぉ。」


「だったらどうすればいいんだ?騎兵もどきを20騎もかくまって俺達だけで戦えって言うのか?」


 騎兵もどきとは、騎兵のフリをした馬に乗れない騎兵、新貴族班20名、つまりフレデリカ達である。


「俺は反対だぜ!こんなヤツら!貴族だか新貴族だか知らないけどよ。俺達は戦いに来てるんだぜ?こんなクソの役にも立たないようなヤツらと協力なんて御免だぜ。」


「あたいだって反対だよ!」


 ジェイクが声を上げると、俺も俺もと班員はこぞって反対の意見を出した。

 そんな中、騎兵もどきの残り19騎を連れたランズベルクが帰ってくる。


マイトランド達の陣地に到着するなり、騎兵もどきの中の一人、フルプレートを着てベンテールを上げた女が、腰のロングソードに手を賭ける。


「貴様ぁ!平民の分際でフレデリカ様を泣かせたな!」


ベンテールとは甲冑の兜の可動部分で、見辛い場合などに、スライドさせ、目視する部分である。


「おい、フレデリカ、このフルプレートに着られている女を何とかしてくれ。」


 マイトランドがそう言って笑うと、今度はロングソードを抜き、振りかぶってその女が叫ぶ。


「貴様ぁぁぁ!平民の分際でフレデリカ様を呼び捨てにするとは!そこに直れ!成敗してやる!」


「クレア!やめろ!マイトランドに失礼ではないか!」


 フレデリカが威厳を取り戻すと、クレアと呼ばれたフルプレートの女は、悔しそうに答える。


「で、ですが、フレデリカ様、こんな身分の違いも分からない輩は、成敗したほうが世の為です!」


 マイトランドはその言葉に、にやりと笑うと、


「フレデリカ、協力してやってもいいが、条件がある。馬に乗れるのは何人だ?」


「馬に乗れるのは、私を含めて5人だ。協力してくれるならなんでもしよう!」


「なんでもと言うのは本当だな?」


「ああ、もちろんだ!」


フレデリカの了承を得たマイトランドは、大きな声で班員に伝える。


「皆、聞いたか?俺達は、フレデリカ達に協力するぞ!」


 マイトランドの言葉にランズベルクは笑っていたが、ジョディーと、ジェイクは反論する。


「あたいは嫌だよ!」


「俺だって貴族に協力するなんて嫌だ!」


 そうなると他の班員達も2人に乗る。


「「「嫌だ、嫌だ。貴族なんて嫌だ!」」」


 反論でざわつく班員達を見て、困った顔をするフレデリカを尻目に、マイトランドは一言。


「よし、ジェイク、皆に馬に乗れる5人以外から、装備と馬を奪わせてくれ。フレデリカ、馬に乗れるやつを集めてくれ。」


 ジェイクは、マイトランドの意図を理解すると、クレアに近寄り確認する。


「お前馬に乗れるのか?」


 クレアは顔を真っ赤にすると、


「平民に答える必要はないわ!」


 そう言ってそっぽを向いた。

 ジェイクはマイトランドに目をやり、マイトランドが頷くのを見ると、クレアを押し倒し、ロングソードを力ずくで奪い取る。

 それを見たフレデリカは、また泣いてマイトランドに懇願する。


「マイトランド、やめさせてよ。酷いことしないで。みんないい子たちなんだからぁ。装備も馬も渡すから・・・。おねがいします。」


 もう威厳も何もあったもんじゃない。マイトランドはため息を一つつくと、


「ジェイク、だそうだ。自発的に差し出させてくれ。」


 ジェイクは頷くと、馬に乗れない新貴族達が装備を取り、下着姿になるのを待った。


「フレデリカ、2位でいいか?」


 フレデリカはマイトランドの言葉を聞くと、涙をぬぐい答える。


「もちろんだ、でもマイトランドは最優秀班を狙う気がないということか?」


「そうじゃない。お前達の順位だ。当然俺達は最優秀班を目指す。」


 フレデリカは頬を赤く染めると、


「約束だぞ!」


 そう言ってマイトランドの背中を押す。

 マイトランドは“かわいい”と口から出そうになるのを飲み込み、班員とフレデリカ達5名に森林地帯までの侵入経路を確認すると、


「シュウ、フラン、クリス、ジョディー、フレデリカと新貴族1名は俺と共にポエルの警戒する北東の森林出口に進出する。余りのパイクを2頭の馬に引かせて、ジョディーが引っ張って来てくれ。ランズベルクはアルベルト、ジェイク、と新貴族3名を率いて北西の森林出口に進出してくれ。分断作戦になるが、念話で連携を取れるようにして、危ないと思ったらすぐに、引いてくれ。残りの者は陣地に残って蟇目鏑矢の合図3回でパイク準備を。では各員の健闘を期待する!かかれ!」


 班員と新貴族が準備に取り掛かると、ランズベルクがマイトランドに近寄り、


「なんか軍師って言うより指揮官ぽいな。俺達は危ないと感じたら道を塞ぐ感じでいいな?余ったパイクと馬2頭も少し貰って行くぜ?できるだけ戦力は削ぎたいからな。」


「ああ、頼んだぜ。相棒。」


「その呼び方、あの時以来だな。こっちこそ頼んだぜ、相棒。」


 相棒、その言葉に2人はさわやかな笑顔で拳を握り、突き出すと無言で合わせた。


 進軍準備を終えると、2隊はそれぞれの地域へと進軍を開始する。丁度模擬戦1日目の日が暮れかけた頃だった。

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