第33話 模擬戦 12

「装備を回収してくれ。特に、ロンベルト、フリオニール、アーシュライトの装備は多少壊れていても剥がしてくれ。ジョディーは警戒している二人から装備を受け取って来てくれ。」


 マイトランドの言葉と共に、全員で装備の回収をする。


「なあ、マイトランドよ、次はなんか考えてんのか?」


 ランズベルクは、ロンベルトとの戦いに、あまり手ごたえを感じなかったのか、この後の貴族2班との決戦が楽しみな様子でマイトランドに尋ねる。


「ああ、フリオニールとロンベルトを見て思ったんだけどな、次はもっと姑息な手だ。敵の数が少ないからできる、大将だけを狙う作戦だ。その作戦の鍵はジェイクだ。できるだけ俺達のスキルを隠して戦いたいからな。ランズベルクは、まぁアレだ、決闘さえなければ休んでる間に終わるよ。」


「マジかよ。この模擬戦の俺の出番って、木を切って、貴族と決闘して終わりか?折角女の子がいるんだ。もっとかっこいいとこ見せたいぜ。なんとかしてくれよ。」


「いや、それ以外も沢山働いてもらっただろう。今回は本当にもう出番が無いんだ。あきらめてくれ。次の模擬戦、ランズベルクの見せ場いっぱい作るから。」


「あ、ああ。わかった。しょうがねえな。その代り次は頼むぜ?いっぱいだぞ?」


「ああ、約束だ。それより、装備の回収が終わったら皆を集めてほしい。」


 最終戦で自分の出番がないことが、よほど不満だったのだろう。次の模擬戦の見せ場を約束されても、その不満は完全には解消せれず、ランズベルクは少し元気なく頷くと、皆を陣地中央に集めた。


 警戒の交代に出た、アツネイサとイブラヒム以外の全員が陣地中央に集まると、マイトランドは作戦の説明をする。


「今回は、ここにいる、全員を2隊に分ける。貴族1班から回収した装備を着用した10名と、フレデリカ達の鎧を着た20名に。貴族1班から回収した鎧を着た隊は、馬術のスキルがある物だけを集めて、敵から逃げるだけだ。ジョディー、ポエル、シュウ、ヘクター、スナイダー、フレデリカ、それと馬の乗れるフレデリカ班の四名。指揮は、スナイダーが執ってくれ。」


 そこまで言うと、スナイダーが即座に反応する。


「ぼ、僕?マイトランド、間違ってない?」


「いや、間違っていない。フリオニールの着用してくれ。大丈夫だ、セリフは考えてある。」


 マイトランドがそう言うと、フレデリカとランズベルクそれにジェイクが”そういうことか”と笑い出す。


「ほらやっぱり、皆して僕をからかっているんだね。ひどいよ。」


 そう言って、下を向くスナイダーにフレデリカが声をかける。


「すまない。そう言う事ではないのだ。スナイダーの声があまりにもグレッテ卿に似すぎていて、笑ってしまったのだ。本当に申し訳ない。」


 事実スナイダーの声は少し弱弱しいものの、フリオニールの声によく似ていたのだ。

 スナイダーは貴族に似ていると言われたのが嬉しかったのか、


「そ、そういうことならね。僕、皆の為に頑張るよ!今回だって陣地を作る手伝い以外は何もしてないだもん。種の知識なんて役に立たないしね。」


 弱弱しく答えるスナイダーの返答に、マイトランドは笑いながら、


「“僕”じゃない、フリオニールは“私”だ。それに、誰にでも向き不向きはあるものだ。自分を生かせる分野で戦えばいい。俺だって今回は何もしていないだろう?全部皆にやってもらっているだけさ。」


 マイトランドの反応が嬉しかったのか、スナイダーは鼻息を荒くし、決意を固めると、それを確認したマイトランドは、作戦の続きを説明する。


「ヘクターは体格が似ているロンベルトの装備を。それ以外は適当に着てくれ。スナイダー隊は全員装備を不自然なまでに汚しておくように。他は俺と共にフレデリカ班を演じる。全員鎧を磨いておくように。この作戦の鍵は、スナイダーの演技と、ジェイクのスキルにかかっている。ではスナイダーと、ジェイク、にはそれぞれの行動を説明する。各員それぞれの行動にかかれ。」


 作戦の概要が伝えられると、マイトランド、スナイダー、ジェイクを残し、他の者は鎧磨きや、鎧汚しにかかった。


 スナイダーへの演技指導はフレデリカに任せ、マイトランドは、ジェイクに作戦の中核となるスキルの説明をすると、


「それだけか?くっだらねえ。そりゃあ、まるっきり詐欺じゃねえか、やられた側の立場に立って考えたことはあるか?禁止法に引っかかるぜ。相手もそんなことされるとは夢にも思わないからな。だけどよ、お前といると本当に飽きないな。」


 ジェイクはそう言うと、大笑いしてマイトランドの肩を叩く。

 マイトランドも笑いながら答える。


「これは、戦車が部隊の先頭に出ないから考えられるんだ。それとスキルは人に通じるなら馬にだって通じるだろう?」


「まあな。とにかく任せとけ。それにこんな簡単なことで、平民の俺達が最優秀班になれるんだ。失敗なんかしたら笑われちまう。」


「とにかく頼んだぞ。」


 マイトランドはそう言って、周囲を見回すと、その場にいた誰もが笑顔で作業をしているのに気付く。全ての班員が決戦前に疲れを感じていないことを確認すると、自身も鎧磨きにかかった。


 模擬戦も終盤、2日目の太陽が傾き、昼の終わりを迎えようとしていた。

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