第32話 模擬戦 11
「これで残るは貴族2班だけか。」
ランズベルクは嬉しそうな表情でマイトランドに呟く。
マイトランドは少し黙ると、真剣な顔で答える。
「ああ・・・。」
その後の言葉を言いかけると、喉の奥に飲み込んだ。
穴から這い出る者があったからだ。
ランスと盾を捨て、フリオニールを担ぎ、人間3人程はあろう高さを登って来たのはロンベルトだった。
ロンベルトはフリオニールをそっと下すと、
「フリオニール様、少しここでお待ちください。」
そう瀕死のフリオニールに告げた後で、
「壊滅した我々がこんな事を言うのもおこがましいと思われるやもしれんが、一騎打ちをお願いしたい。貴族と新貴族の間には決闘の習わしも通用するであろう。もちろん勝敗には影響しない。」
そう言うと、腰のロングソードを抜く。
「マイトランド、どうする?」
「ああ、受けよう。」
そう言うと、一歩ロンベルトに近づき、続ける。
「誰か、この勇者と決闘したい者はいるか?いたらその場で手を上げてくれ。もしいないのであれば、俺が受けよう。」
熟練の兵士を思わせるロンベルトは短髪で堀が深く、貴族とは思えない体のつくりで、身の丈はヘクターよりも少し大きい位だろう、首も腕も誰よりも太い。業物であろう腰のロングソードの刃は、誰の剣よりも光輝いて見える。もちろん鎧も今は汚れてしまっているが、どう見ても一級品だ。
その風格に圧倒され、マイトランドの提案に、平民、新貴族誰もが挙手をする者はいない。
「さて、誰もいないようだし、俺がやるか。」
マイトランドは覚悟を決めると、もう一歩前へ踏み出す。すると、ランズベルクがマイトランドの前に出ると、胸をポンっと叩き口を開いた。
「ここはまだ軍師殿の出番じゃないだろう。俺に任せろ。」
そう言うと腰の剣を抜き、ロンベルトに正対した。
「礼を言う。お主の名前を聞いてよいか?私はロンベルト、ロンベルト・フォン・ライト、ライト家の次男だ。」
そう言ってロンベルトはランズベルクに頭を下げ、肩に剣を担いだ。
ランズベルクは平民であるが故、決闘のしきたりを知らない。当然だが、的外れの自己紹介となってしまった。
「ランズベルク・メレディアスだ。長男だ。家とかはあんまりわからん。親父は真面目な良い親父だ。」
「そうか、どの家でも父は偉大だ。」
単なる世間話になりそうになったところで、ロンベルトが我に返る。
「う、ううん。では行くぞ。鉄壁!城塞!アンチアーマーブレイク!ベンジェンス!」
鉄壁、城塞、は自分の物理防御力を飛躍的に上げるスキルであり、アンチアーマーブレイクは防御力を低下させる、アーマーブレイクを無効化させるスキルである。
ここまでは知っていたランズベルクは、最後のスキルが気になり尋ねる。
「マイトランド、ベンジェンスってなんだ?」
これにマイトランドが答えるよりも早く、ロンベルトが回答する。
「すまないな。少し卑怯だとは思うが、使わせてもらう。物理攻撃を受けた時にダメージの半分を跳ね返すスキルだ。」
「ああ、そういうスキルね!わかったぜ!親切にありがとうな!てか、もう始めていいんだよな?」
と軽い返事を返すランズベルクに戸惑いながらもロンベルトは、
「では、参る!」
そう言うと、突進を敢行した。
ランズベルクは、マイトランドとの約束を守り、剣を顔の前に持って行くと誰にも聞かれないように、呟く。
「魔法剣風!」
ランズベルクの剣が緑色の光を放つと、ロンベルトの突進に剣を構え、真正面から向かっていく。
それは一瞬の出来事だった。
ロンベルトの斬撃を光る剣で右肩方向に受け流すと、そのまま柄頭をロンベルトの顎に当て、のけぞるロンベルトの腹に強烈な斬撃を叩きこむ。
ロンベルトはそのまま地面に倒れ込み、ランズベルクに顔を向ける。
「今、何をした。何故お主にダメージが無い。」
「うん、ダメージ?あるぜ!痛いぜ。普通に痛いぜ。転げまわりそうだぜ。」
早口のランズベルクの言は、もちろん嘘である。打撃、斬撃、共に魔法剣の加護を十分に発揮し、物理ダメージではなく、魔法ダメージとして換算されたからだ。
「そうか、単に私の能力がお主に届かなかったという事か、新貴族・・・。見事だ・・・。」
ロンベルトがランズベルクを称えるとランズベルクは苦笑いで答える。
「いや、俺、新貴族じゃないんだ。平民だぜ。さっき言ってやれなくてわりぃな。」
「そうか、俺は守るべき平民にやられたのか・・・。」
それだけ伝えると、涙目になったロンベルトは、失意の中、自ら意識を断った。
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