第85話 急変と帰還

 翌日、砦北東部ウェスバリアに最も近い門からマイトランドは砦を出発する。

 そこにマイトランド以外はフリッツの姿しかなかった。


「では、お世話になりました。届くかどうかはわかりませんが、友のランズベルクの名で、手紙を書きます。」


「そうか、ランズベルクか。覚えておこう。帝国第18軍団にビスマルクは一人しかいない。ビスマルク宛であれば届く。手紙の検閲はあると思うが、同盟国だ、没収されることもないだろう。届いたら私もランズベルクに手紙を書こう。」


「ありがとうございます!それでは!」


「ああ、また!」


 マイトランドは別れを言うと砦を後にした。フリッツは何故か別れを惜しみ、マイトランドが見えなくなるまで手を振っていた。


 ---


 フリッツと別れた後、半日をかけ第18軍団の守備する砦をぐるりと迂回し、ランズベルク、イブラヒム、ポエルに警戒、監視の指示を出した地点付近まで移動した。


「ん?誰もいないな。」


 マイトランドはそう呟くと、スキル気配察知と魔力感知を利用し、周辺を探るも何の反応もない。本当に誰もいなかったのだ。


「もしかしたら、第2軍が前進したのかもな。分隊指揮所まで移動するか。」


 再度呟くと、分隊指揮所のある場所まで移動をすることにし、移動を開始した。


 そこから1日かけ分隊指揮所付近まで到着すると、


「だれか?」


 と、後背からアダムの声で誰何(すいか)があった。

 当然、その誰何にマイトランドは反応する。


「アダムか?俺だ。マイトランドだ。ランズベルク達の警戒する場所まで寄ったんだが、誰もいなくてな。ここに戻ったって訳さ。入れてくれるか?」


 するとアダムは体を見せ、安堵の表情でマイトランドに答えた。


「なんだ。マイトランドかよ。そんな服着てさぁ。敵かと思ったぜ。どこ行ってたんだよ。大変だったんだぞ!」


 初めて見る帝国軍の軍服を着る軍人が、隠蔽した分隊指揮所に近づいたことに危機感を覚えたのだろう。緊張が解けたアダムに、マイトランドは尋ねた。


「なんだ?何があった?」


「何があっただ?第2軍の旧第1軍団の奪還作戦は知ってるのか?」


「知らん。たった7日いない間にか?どう言う事だ?」


 アダムの説明はこうであった。


 ウェスバリア第2軍はツェッペリン将軍指揮の元、故ネイ将軍の構築した旧第1軍団陣地の奪還作戦を計画、実行した。

 計画によれば、正面に歩兵師団4師団、重装歩兵師団1個師団の計5個師団、両翼に騎兵師団2個師団、背後に弓兵師団2個師団、最後尾、銃歩兵師団1個師団という編成の大部隊を投入。

 大規模部隊の投入により、旧第1軍団陣地を守備する敵1個軍団は戦闘を回避し後退後退却、第1軍団陣地を奪還することに成功。ウェスバリアの奪われた領土の回復に成功した。

 その後、第1軍団陣地に、歩兵師団2個師団、騎兵師団を1個師団配置、これを新たに第1軍団と再編成し、陣地の守備に就かせた。


「それのどこが大変だったんだ?いい事じゃないか。でも俺達には関係ないだろう?とにかく指揮所に入れてくれよ。」


「馬鹿野郎!話を最後まで聞けよ!その後、その新しい第1軍団は消えちまったんだよ。」


「は?何を言っている?その規模の軍団が消える訳がないだろう?」


「いや、消えたんだ。陣地ごと。」


 アダムの言う事の顛末はこうである。

 ウェスバリア第2軍新第1軍団が守備する陣地は、故ネイ将軍が予め撤退も視野に入れ設置しておいた爆薬が着火し、爆破炎上。陣地もろとも新第1軍団14000名は消滅した。あまりにも一瞬の出来事に、事故なのか敵の工作なのかはわかっていない。


「おそらく敵の工作だろう。1個連隊やって、1個軍団やられたんじゃ割に合わないな。で?ランズベルク達は今何処にいるんだ?」


「冗談言ってる場合か?ランズベルク達は、敵の撤退に併せて、警戒所を更に東に1日ほどの所に移したんだよ。」


「そうか、わかった。そろそろ指揮所に入れてくれるか?」


「ああ、入れよ。みんな待ってるぜ。」


 アダムはそう言うと、指揮所まで案内し、指揮所入口の幕を上げた。


「分隊長、ラッセル2等兵。ただいま帰還いたしました。」


「おお、マイトランドか、敵1個連隊の掃討ご苦労。予定よりも遅かったな。帝国に捕まったと思っていたぞ。」


 今回の作戦の全容を知るドワイトは、他の面々が緊張している中、笑みをこぼしながら、返答した。


「捕まっていたと言えばそうでしょう。ですが今回、帝国に良いパイプもできました。」

 

「そうか。ならば良かった。で?アダムから聞いたのか?」


「はい、大体のことは聞きました。つきましては、ランズベルク達と合流したいと思います。よろしいでしょうか?」


「そうだな。あっちの3人は不眠不休で頑張っている。追加の糧食も昨日届いたところだ、4人分の糧食1週間分を持ったら、直ちに合流してくれ。」


「はい!」


マイトランドは勢いよく返事をすると、荷物をまとめ、休むことなくランズベルクの待つ警戒所に進発した。

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