第125話 トレーナ会戦 前編 6

 12月30日未明 

 トレーナの会戦最初の戦闘は意外なところで開かれた。

 帝国軍第18軍団、第58猟兵連隊、第1大隊大隊長である、カール・ハインツ・マイ少佐は、直属の隷下部隊の長であるフリッツ・ヨアヒム・フォン・ビスマルク上級曹長からの敵発見の報告を受け、大隊を南下させた。


 南下した大隊の斥候部隊である、ビスマルク上級曹長は、敵カルドナ王国軍偵察部隊の位置をあらかじめ把握。交戦になれば、数的不利から敵は撤退すると予測し命令した。


「小隊、1班から3班まで順に斉射3連の後、各個射撃!撃て!」


 威力偵察と称して、敵部隊に対し攻撃を開始すると、最初の戦端は開かれた。

 これに対し、敵偵察部隊は”敵連隊規模と交戦中至急救援を乞う”と増援を要請。

 背後に控える第8銃歩兵師団師団長ジュリオ・デ・ボーノ少将は、以前より囁かれた、帝国軍の大規模侵攻と勘違いし、これを阻止すべく、即座に1個連隊である連隊長ウバルト・ボルジア大佐率いる、第56銃歩兵連隊2800名を投入した。


 装備の優勢からか、ごく短い時間で、敵偵察部隊を撃破した、ビスマルク小隊は負傷者も出たことから撤退。大隊へと合流した。

 ビスマルク上級曹長は、大隊へと帰還すると、また別の偵察部隊から、敵連隊規模の到来を知ることになる。

 

 正午になると、カルドナ王国軍第56銃歩兵連隊は、帝国軍第58猟兵連隊、第1大隊に向け北上、マイ少佐はこれに各中隊ごと応戦指示を出しつつも、連隊本部へ増援を要請した。

 マイ少佐の要請に第58猟兵連隊は全大隊2500名の投入を指示、連隊対連隊規模の戦いにまで発展した。

 当初優勢であったカルドナ王国軍第56銃歩兵連隊であったが、銃の性能の差から思うように攻められず、大隊相手に戦線は膠着した。


 12月30日夕刻になると、カルドナ王国軍第56銃歩兵連隊は敵の第58猟兵連隊全隊が揃い、半包囲される。

 第56銃歩兵連隊連隊長ウバルト・ボルジア大佐は半包囲された状況を師団に報告した。

 

「我、敵に半包囲される。至急増援を乞う。至急増援を乞う。」


 しかし、無情にも魔導通信機からは返答はなかった。

 翌31日まで戦闘は継続されると、第56銃歩兵連隊は完全に包囲され、指揮官ウバルト・ボルジア大佐は観念し自決、指揮官代理である副連隊長が帝国軍に降伏、これによりカルドナ王国軍死者1700名捕虜1100名、帝国軍死者220負傷者120という帝国軍の圧勝により、最初の戦闘は終決し、帝国軍は、第18軍団砦へと帰還した。

 

 この戦闘を、別の偵察部隊に確認させていた、カルドナ王国軍デ・ボーノ少将は帝国軍の帰還を知ると、大規模侵攻は無いと判断。1個連隊を犠牲にするも、自身の第8銃歩兵師団を、陣地に守備隊として1個大隊860名を残し、かつてよりの要請のあったウェスバリア第2軍団へ向け南下指示を出し、進軍準備をさせた。


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 話しは少し戻り、12月30日午前。

 戦端が開かれたことを知らない、ウェスバリア第2軍第2軍団ヴェルティエ中将は、雨が上がると、この日も司令部へ各指揮官へ召集をかけた。


「やっと雨が上がった。貴官の祈祷が効いたのかもしれんな。はっはっは。」


「はい!私の祈祷が効いた様でなによりであります。」


「まぁ、それを命令したのはこの俺だがな。」


「はい!閣下のおかげであります!」


 首席参謀コッセル大佐は、この日もヴェルティエ中将のご機嫌を伺っていた。


「各師団長、これより我が第2軍団は平原北側中央部ヴァノワーの森まで進出する。まだ我が軍団は敵に露見していない。今後も敵に見つからぬよう、心して行軍をしてほしい!」


「「「はっ!」」」


 各師団長が持ち場に付くと、第2軍団はその進路を東へ行軍を開始した。


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 同じころ、カルドナ王国軍第125混成団ジョヴァンニ・メッセ少将は東西に延びていた、チェニスキー河が大きくカーブし、北の上流方向まで伸びる地点まで到達すると、上流に工作部隊を展開を指示した。


 工作部隊への命令は、渡河する敵ウェスバリア別働隊へ、上流で木を伐採し、それを流すという単純な物であった。

 更に別の工作部隊に、河手前で簡易的な陣地構築を指示、混成団の内第58銃歩兵連隊を北側の森に潜ませると、敵の渡河に対応する準備を始めた。

 

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 マイトランド達キスリング支隊は、更に東へ行軍し予備陣地を新たに構築、翌31日の進発まで全隊で休息を取った。


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 さて、ウェスバリア第2軍本隊であるが、ここから先4日は全く会敵することなく、平原中央部まで進むことになる。


 30日夜に、トゥルニエ少将はアダムスを通じてマイトランドに連絡を取る。


「そちらはどうだい?」


「トレーナ平原南部、中央部の中央付近まで到着しました。陣地は予備陣地を含め2を構築中です。」


「そうか。罠の爆発の件だが、うまくごまかしておいたよ。ツェッペリン大将は頭の固い人でね。ハーゼ君には悪いが戦死したことにしておいた。階級が大佐に昇進したのと、家族には弔慰金が行くが、本人には伝えないでくれ。で?これからはどうするつもりだい?」


「そうですか。わかりました。こちらは敵の冒険者部隊に渡りを付けています。平原東側に到着したら、指揮下に加えたいと思います。その際、冒険者200名程に多少金が必要になると思いますが、いかがいたしましょうか。」


「金か。それは問題だね。戦死した800名の弔慰金の中から後で支払うということでどうだい?」


「はい。ありがとうございます。」


「冒険者達に金を払わないといけないからね。800名全員無事帰還させてくれよ。」


「善処いたします。」


 冗談を交え会話している様子は、戦闘が始まっていないからか、マイトランドとトゥルニエ少将にまだまだ余裕を感じるものがあった。

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