第124話 トレーナ会戦 前編 5
12月29日午前、まだ雨の続く中、これまでにトレーナ西門外壁の強化補修を完了させた、カルドナ王国軍第10軍団は、壁外にいる第11軍団と第12軍団と合流。
第4軍総司令官ガリボルディ中将は、第10軍団軍団長及びトレーナ守備司令であるアンプロージョ少将にこの指揮を一任した。
アンプロージョ少将が司令官に指名された理由は、野戦でウェスバリア軍の戦力を削り、籠城戦へと移行する際、トレーナの守備司令官が戦闘指揮を執っておれば、3個軍団の、トレーナへの後退が容易であるという理由からであった。
アンプロージョ少将は、第11軍団の第13銃歩兵師団から1個銃歩兵連隊約3000名をトレーナ西側南部の森に派遣すると、そこに強固な陣地を築くように指示した。また、他の部隊は、数の上で劣勢であるため、撤退戦を顧慮し、東側の野営地を北側川沿いの木を伐採し、簡易的であるが、要塞化することを指示した。
続いてトレーナ市街から冒険者を全員呼び出すと、1個中隊として編成。これを冒険者達の強い要請から、翌30日から南部森林地帯東側地域の斥候に進発するように指示した。
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同じ頃、予備陣地の構築を終えたキスリング支隊は、更に東へと行軍するべく準備を終えると、マイトランドの指示で、雨の中行軍を再開した。
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さて、ウェスバリア第2軍本隊は、キュイーヌ台にて、この日も各師団長を総司令部へと召集すると、ツェッペリン大将が開口一番、トゥルニエ少将に訪ねた。
「貴官の師団進行ルート上だけに、また爆発があったが、あれはなんであるか?貴官の部隊の将兵は、よもや敵に通じているのではあるまいな?」
「私の師団をお疑いですか?ではお伝えしましょう、我が師団の精鋭である特務隊が進行ルート上の敵の罠を破壊しております。その際、魔法により対処しておりましたので、爆発が起こったものと昨夜報告を受けました。」
「そうであったか。しかし、貴官の師団の進行ルートだけと言うのもな。他の師団の進行ルートもどうにかならんか?」
「閣下、僭越ながら申し上げます。偵察により、我が師団にも多少なりとも被害が出ているのです。腹心ハーゼ少佐などはその爆発で行方知れず。彼の家族を思うと、私は夜も眠れぬほどでございます。」
「そうか、これは失礼した。各歩兵師団もトゥルニエ少将の師団を見習い、各個に偵察を出し、罠の発見に務めよ。」
「もったいないお言葉、ハーゼも喜んでおりましょう。」
当然ハーゼ少佐は死んではいない。だが結果として、この会話はトゥルニエ少将の評価を上げる一幕となった。
「本日はヴェルニエ台までの行軍とする。昨日と同じく、行軍終了後は各師団、陣地構築を実施せよ。では各員行動にかかれ。」
トゥルニエ少将は、総司令部を出ると、ヴァイトリング准将に呼び止められた。
「少将、いささか評価を上げ過ぎるのではないか?」
「いえいえ、私は与えられたものを、的確に利用しているだけです。准将もあの者をもっと効率的に利用すればよろしいかと。」
「お主の見たてでは異才か?あれは。」
「そう感じております。実際に私と准将、二人もの将官がたかが平民の2等兵に従っております。」
「そうじゃな。儂は別に従っておるわけではないがな。」
「そうですか。一個連隊も彼に与えてですか?まぁいいでしょう。准将、御武運を。」
新貴族同士の家柄の関係もあるのだろう、トゥルニエ少将はヴァイトリング准将に頭を下げる形でその場を後にした。
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一方でヴェルティエ中将率いる第2軍団であるが、こちらは戦闘も始まっていないのに激昂するヴェルティエ中将を各指揮官が抑える事態に陥っていた。
「また雨か!これでは行軍できぬではないか!!首席参謀!貴様、即座に雨が止むように祈祷して参れ!」
「はい!直ちに行ってまります!」
首席参謀であるコッセル大佐は、ヴェルティエ中将ご機嫌取りに裸体になると、そのまま司令部を後にする。
これに昨日も進言した次席参謀シェプケ中佐は、ヴェルティエ中将の機嫌を取ることなく再び進言する。
「閣下、雨は止むまで待つ他ありますまい。どうかお気を沈めになって、各方面に斥候を出すしていただくよう具申致します。」
苛立っているヴェルティエ中将は、この正論を言うシュプケ中佐に反発した。
「ああん?貴様!俺の言っていることが分からんのか?敵は我が第2軍団の存在に気付いてはおらぬ!」
「敵は気付いていると思い行動した方がよろしいかと存じます。どうか斥候を増員していただくよう重ねて進言いたします。」
一歩も引かないシュプケ中佐に、ヴェルティエ中将は更に怒りを増幅させると、大声で叫んだ。
「どうやら貴様、人の言葉がわからんらしいな。貴様などもういらん!貴様の次席参謀の職を解任する!事後は第2軍総司令部に戻れ!」
感情に任せてそう言い放つと、シュプケ中佐を解任、追放した。
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