第59話 攻城戦の準備 1

「さて、配置だが、今回は特に気にしなくて良い。門に到着して、ライアネン達が守る門に火薬をセットしたら、フランが魔法で着火、爆発させて、終わりだ。」


「その後は?どうするんだ?」


 ランズベルクが確認の意味を込めて聞くと、マイトランドは笑って答える。


「こちらが全軍で門を攻めようとすれば、門に全軍を集めるはずだ。ライアネンの情報によれば、ライアネン隊とその仲間が門の開錠部隊だ、なんだかんだ適当な理由を付けて、門開けるはずもない。門の内側に全軍が集結したところで、砦の橋をヨーゼフが内側から落とし、敵の迎撃部隊の全軍を遊兵とする。そこまでお膳立てをしてやれば、手薄になった砦内で、功を焦る下着泥棒ライナーが敵大将を討ち取るだろう。過去、誰が使った手よりも卑怯な手でな。」


「そんなにうまくいくもんか?寝返りを信じて大丈夫か?」


「ああ、大丈夫だ。ラそれにンズベルクは今回も別行動だしな。万が一にも下着泥棒が失敗してとして、どうせランズベルク相手に、護衛できる人数はいないんだ。砦内に送り込んでいるこちらのファルジンである、ランズベルクでシャーマートだ。これは、どの寝返り部隊にも伝えていない。」


 ファルジンとシャーマートとは、シャトランジで使われる用語で、ファルジンは、将軍を意味し、シャーマートは、いわゆるチェスで言うところのチェックメイトである。


「ファルジンって。そうか、ついに俺の活躍の場って訳だな?前回俺の出番は無かったしな!下着泥棒の頭じゃ失敗しそうだ、ロンベルト以来の一騎打ちでもしてやるか!」


 マイトランドは、意気込むランズベルクの肩に手を置くと、ランズベルクに諭した。


「大丈夫だ。9割5分位の確率で、ランズベルクに出番はない。下着泥棒は戦功欲しさに、俺達の予想を遥かに超える卑怯な手を使うと思うしな。」


 マイトランドはそう言うとにやりと笑って続けた。


「もともとこっちの数が少ないんだ。これで失敗するなら、もうどうにもならん。逆に教えてほしいくらいさ。」


 敵砦に潜り込むランズベルクの仕事でさえもこの程度だ。他の者達も自分の役割を求め、マイトランドに殺到する。


「マイトランド、私達は何をすれば良いか?」


マイトランドは少し考えると、思いついたように手を叩くと答える。


「フリオニールは・・・。そうだな。まあ、全軍を鼓舞してくれ。もちろん、ロンベルト、アーシュライトも出番はない。」


「わかった・・・。」


 フリオニールは、それだけ言って、肩を落とし頷くと、それを見たジェイクが口を開く。


「なんだ?大将でも出番がないってことは、俺達にも出番がないのか?」


「ああ、ない。もちろん俺もない。今回は火薬をセットするポエルと、その火薬の爆破役のフランだけだ。」


「そうか、今回はわかった。なら次の模擬戦は作ってくれるんだろうな?俺の出番を。」


「ああ、次があればな。約束だ。一騎打ちでもなんでも好きにやってくれ。」


 マイトランドとの約束を取り付け、ジェイクは、ほくそ笑むと拳を小さく握った。


 ジェイク以外にも、班員達が次々とマイトランドに質問してくると、さすがに面倒になったマイトランドは、全員に説明する。


「聞いてくれ。これは部分的ではあるが、戦争だ。戦争というのは、敵と味方が同数の場合、戦術や戦略の差、兵の練度や規律、団結、士気の差などもあるが、それらも同じ場合、将軍、兵士各々が、作戦や命令を理解して、自分の役割をどれだけ熟知し実行に移すかで、勝敗は決まると言っていい。つまり司令なんてものは簡単で少ない方がわかり安いだろう?こちらはその作戦で上回っていることがわかる以上、何もしなくて勝てるならそれが一番良いってことだ。無理に仕事を作ろうとしなくていい。逆に負けるぞ?」


 マイトランドの言は、ニュアンスは違うが、現代の『ゼークトの組織論』という軍事ジョークにおいての”愚かで勤勉なタイプ、このような者にはいかなる責任ある立場も与えてはならない。”と通ずるものがあるのかもしれない。


 マイトランドから出た、負けるという言葉に、一同は黙り込んだ。

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