第60話 攻城戦の準備 2

 沈黙の中、先のマイトランドの言葉に疑問を持ったのか、フレデリカが声を上げる。


「次があればとはどういう意味だ?たしか、新兵教育は4回の模擬戦と、3回の学科試験だったと思うのだが?」


 この場にいる誰もが、疑問を感じていたことだが、マイトランドの言葉を不思議に感じ尋ねると、マイトランドは両手を広げ、はぁ、とため息をつくと答える。


「ああ、教育規定ではな。だが、これで攻め手、つまり俺達が勝ってしまえば、次の模擬戦をする意味がないだろう。次は大将を二人に分けての総力戦だ。まぁ言ってしまえば、2回目の模擬戦と何も変わらんという事だ。」


「うん、それはわかるんだ。だけど、軍の編成を少し変えるとか、敵味方が入れ替わるなどで、4回目の模擬戦は成立するのではないか?」


「ふふん。少しは考えろ。この兵力差でぼろ負けする大将が次も勝てると思うか?思わんだろう。最悪あったとしても、序列はフリオニールが上だ。フリオニールが俺達の班を選べば、グレンダはそれだけで降伏するさ。つまりこれが最後の模擬戦になるという事だ。加えて俺達は今回勝つから、2回目の学科試験を受ける必要が無い。つまり課業を除けば新兵教育は、学科試験があと1回だけになるという事だ。フリオニールにしても、今回この状況から勝てば、わざわざ俺達を選ばないと言うこともないだろう。どうだ?フリオニール。」


 マイトランドは一通りの説明を終え、フリオニールに話を振ると、フリオニールは両手を広げ、頭を小さく左右に振りながら答えた。


「マイトランドを選ばない訳がないだろう。私とて、グレンダ嬢の様になるのは嫌だからな。マイトランドが敵にいると言うだけで、自分の班以外の仲間全てを疑わねばならん。できることなら、そんなことはしたくない。マイトランド以外47班の全員をこちら側に貰えるというなら少しは考えるがな。」


 フリオニールがそこまで言い終えると、ランズベルクが話に割って入った。


「ないない。少なくとも俺はマイトランド以外とは組まないぜ?ロンベルトとももう一度戦ってみたいしな。他の皆はどうだ?」


「マイトランドと離れるのは嫌だな。」


「そもそも班を分割っておかしいだろう」


 フリオニールはマイトランド班の否定的な意見を聞くと、満面の笑みで答える。


「ではやめておこう。勝機が無い。」


「そうだな。それを分かってもらう意味も込めて、今回の模擬戦では調略という手を使うんだ。少しはグレンダに同情するけどな。わかったかフレデリカ?」


「ほおぉ。マイトランドはすごいなぁ。グレイグおじ様の言っていた通りだ!おじ様はいつもマイトランドを褒めていたぞ?」


「俺がすごいわけじゃない。皆がいるからこの手あの手が使えるんだ。ここにいる全員が、欠けることなく仲間でいるからな。一人で何でもできるのは、そこにいるランズベルクくらいさ。」


 マイトランドの言葉に、皆が、鼻をほじるランズベルクに視線を移すと、ランズベルクはその取れた鼻くそを、ベッドの脇に付け立ち上がる。


「ああん?俺は作戦を考えるとかは無理だぜ。マイトランドがその辺は担当してくれるからな。ぶっちゃけ楽でいいぜ。」


 そう言ってまた鼻をほじりだすと、皆は、苦笑いをしてランズベルクから目をそらした。


「まあ、泣いても笑っても、これが俺達だけで戦う最後の戦場だ。それが調略になってしまうのは、なんだか惜しい気もするがな。楽に勝てるのは悪い事じゃない。いかに自分の手を、スキルを、隠して戦うかって話だ。」


「そう言えば、ランズベルク以外はマイトランドのスキルを見た者はいないな。イーグルアイだったか?あれくらいだな。他にはどんなスキルがあるんだ?」


「秘密だ。使う場面が来ることがあれば喜んで使うけど、今は使う時じゃない。いずれ見てもらうことになるさ!さて、話し合いも疲れただろうし、明日も早い。今日は解散しようか。」


 マイトランドは、フリオニールの問いを大分ごまかして答えると、皆を解散させた。


 三回目の模擬戦、攻城戦の前日の夜の出来事であった。

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