第61話 第三次模擬戦 1

 第三回目の模擬戦場であるクリフィス演習場は、第一回目の模擬戦が行われたファルマース演習場のすぐ隣、攻城戦のみを想定して作られた演習場である。

 ファルマース演習場のすぐ隣という事もあり、演習場全体の面積はとても小さく、演習場中央の砦の中央監視塔から、その全容を把握することが出来る程である。


 もはや定番となった模擬戦の集結地点に、各班それぞれの位置に移動が完了すると、毎度お馴染みの査閲官の訓示だ。それを終えると、各軍、各班はそれぞれ所定の位置に移動し、模擬戦の準備に取り掛かる。


 準備を終えた頃に、模擬戦お馴染みである、


 ドーン、ドーン、


 と言う銅鑼の音が、周囲の空気に衝撃を与えると、戦闘開始を告げる。


「全軍前進!」


 マイトランドの指示で、フリオニールは最初で最後の指示である、前進を全軍へ命令し、上げた手を大きく振り下ろすと、フリオニール軍の12個班は隊列を維持しながら、ゆっくりと砦の門へ向け、前進を開始した。


 さて、一方のグレンダ軍だが、今回ばかりは、何も準備をしなかった訳ではない。

 当初の計画通り、砦南門に、対攻城兵器用の油、火矢などを大量に配置すると、監視台、門の上部には第二回の模擬戦の最大功労者である、ライアネンの進言を受け、副官の同意のもと、ライアネン班23名を主軸とする3個班、ライアネン隊68名を配置した。

 門の裏手には余った大量の歩兵を配置し、これを統率力のある、貴族3班のエルンストを指揮官に、新貴族4班のゲシュハルトを副官に指名、2名に門の守備にあたらせた。

 さらに、砦街側の壁にヨーゼフ班を配置すると、中央監視塔に、グレンダ班の光魔法を使用できる3名と伝令4名を配置、この3名の光魔法により、各班、各隊との通信手段を確保した。中央監視塔下には予備兵力であるライナー班を配置、街側から回ってくる、敵別働隊に備えた。


 そんな中、門の監視台で警戒に当たっていたライアネンの弟クリードが、マイトランドの指示通り、まだフリオニール軍を発見してもいないのに、大きな声を上げる。


「敵発見!敵発見!全軍でこちらに向かっている模様!」


 理由としては、出来るだけ早く、そして出来るだけ多く、グレンダ軍の主力を門に引きつけたかった為に他ならない。

 クリードからの報告を聞いたエルンストは、副官であるゲシュハルトと相談し、門後方に待機していた歩兵、全軍に通達した後、砦内指揮官のグレンダへ敵発見、敵規模の伝令を出す。


「敵は少数だ、全軍で打って出るぞ!監視に数名を残し、残りは準備しろ!」


 エルンストが大声で命令すると、またクリードが大声で報告する。


「お待ちください!ベルナー様、敵が奇妙な行動をしています!」


 当然ながらクリードは、荷馬車を引きながら接近するポエルの報告はせずに、罠を思わせる様な報告をした。 


 「どんな行動だ?」


 「前進後退運動です!波の様にその場で、突出しては後退しを繰り返しております!」


 無論、フリオニール軍は、その様なことはしていない。

 もしグレンダ軍に勝機があったとしたら、この時であったはずだ。ゲシュハルトの進言通り、エルンストが監視塔に登り、自分の目で状況を確認しさえすれば、クリードの嘘を見抜き、全軍で出撃、フリオニール軍を撃破できていたはずである。

 エルンストは、監視台のクリードを信じると、ゲシュハルトに


「よし、確かに罠かもしれん。門は開けるな。監視台に数名残し、それ以外は不測の事態に準備せよ!」


 エルンストは残りに準備をするように、何度も命令するが、門上が安全だと知っているライアネン隊68名は降りてくるわけがない。


「貴様!命令違反か!すぐに降りておい!」


 エルンストが再度命令するも、全く降りて来ない。


 そうこうしている内に、ポエルは門に到着し、荷馬車を捨てると、一目散にその場を逃げ出した。もちろん、逃げるポエルを、ライアネン隊は弓で攻撃するようなマネはしない。


「おい、なんだこれは。ゴミだ!ゴミを持ってきやがったぞ!」


 当然火薬満載の酒樽を隠してある訳だが、当の本人たちは、ゴミを置き、野戦に打って出るのを妨害されたようにしか、思えない。


「誰か!この荷馬車をどけよ!打って出るぞ!」


 エルンストが命令すると、門の脇の扉をを少しだけ開け、兵士が2人出てきた。


 それを確認したマイトランドは、フランに発破の指示を出した。


「フラン、やってくれ!」


「はいです!任せてください!」


 フランは砦方向に正対すると、にっこり笑い詠唱を開始、得意の火魔法を荷馬車に向け放った。

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