第7話 プロローグ 6
軍本部の中に入り、兵士に連れて行かれた部屋で、椅子に座りしばらく待っていると、
「待たせてすまんな。」
と先ほどとは違う兵士が、一人の男を伴って入室してきた。
「こら!お前達。このお方が誰か分っているのか!椅子から立たんか!!」
入室するなり、兵士が大声でそう叫ぶと、
「「すいませんでした!」」
突然の大声が、余程怖かったのだろう、2人で同時に返事をすると、飛び跳ねるように立ち上がった。
「フランツ軍曹だったか?この子たちはまだ軍人でもなければ、軍属でもないのだ。その様に大声を上げるな。大声を上げるのが憲兵の仕事か?ちがうだろう。」
そう言われたフランツ軍曹は無表情で答える。
「失礼しました!」
フランツ軍曹が黙ると、見識のありそうな男は続ける。
「二人とも座ってくれ。まずは遠路ご苦労であった。私はグレイグ・トランガと言う。」
グレイグと名乗った男は、マイトランド達が持っている首、先の戦いで戦死したオルメア・トランガの兄である。
グレイグは続ける。
「マイトランド、ランズベルク、まだ第1軍の早馬や書簡さえも来ていない中、2人が弟の首を敵地から敵に奪われずに運んでくれたこと、本当に感謝している。案内した憲兵が確認したとは思うが見せてもらってもいいかな?」
マイトランドは立ったまま頷くと、背中に背負っていた袋を目の前にある机の上に置いた。
冬だったからか、あまり腐敗が進んでおらず、オルメアとわかる首を袋から取り出すと、グレイグは怒りにゆがむオルメアの首を手に取り、先ほどの冷静さが嘘のように泣きながら叫んだ。
「ウォォォォ!悔しかったであろう!!無念だったであろう!!」
ひとしきり泣き終えると、グレイグは、
「すまんな。弟とは喧嘩ばかりであったが、いざ失ってみるとその大切さ身に染みる。どんな最後であったか?勇敢であったか?」
マイトランドはしばらく考えると答える。
「暗殺したと思われる男達が、自分達2人のいる建物に入ってきた時には、既に首だけのお姿になっていました。その男達の内1人はオルメアと交戦したと思われ、片腕を失っていました。勇敢な最後だった様に思います。」
「そうか、今オルメアと言ったか?軍機につき名前は出していないはずだが?どこかで面識でもあったのか?」
「はい、オルメアが自分達の村に立ち寄った時に、シャトランジをして黒パンを貰いました。」
「そうだったか。何かの縁であったのやもしれんな。ありがとう。」
そう言うとグレイグは黙って目を閉じた。
再び目を開くと、兄の顔ではなく、軍人の顔に戻っていた。
「軍人として、少将の帰還をさせてくれた2人に報いたいが何を持って報いればよいか?」
グレイグが恩賞であろう話をすると、マイトランドは考え答える。
「はい、国立資料館での、本の閲覧をさせていただけますか?」
マイトランドは答えたが、恩賞の話と聞いて、この男が黙っていないはずがない。怒られた状態から棒立ちだった、ランズベルクの目に急に光が灯り口をはさむ。
「マイトランドぉ、そりゃないぜ!恩賞なら食い物だろ!賞金とかさ!いっぱいあるぜ!村にも持って帰れるしよぉ。」
マイトランドはそんなランズベルクを見て、緊張の糸が途切れたのか少し笑って答える。
「国が貧しいんだ。軍にそんな金あるわけないだろ。資料館でいいよ。」
「そうだな。マイトランドがそう言うなら仕方ないな。あるところにはあるって先生も言ってたのにな・・・。」
内外に借金している貧乏な国に、賞金など期待する方が・・・。と言ったマイトランドの提案により2人の恩賞は資料館での資料の閲覧に決まった。
「マイトランドよ、ところで袋にまだ何か入っているのか?弟の首と一緒に食い物を入れてきたのではあるまい。」
グレイグはマイトランドの首を運んできた包みに目をやる。
「これですか、そのオルメアの首と一緒にその刺客が持っていた首です。オルメアに会ったことがあったので、先にと思いまして。」
そう言ってマイトランドは包んである布から残りの首を取り出した。
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