第8話 プロローグ 7

 マイトランドが、袋から首を1つ出し、2つ出し、3つ目を出す時には、グレイグの顔は羊皮紙さながらに青くなっていた。


「アレクシス将軍・・・。トロンダ将軍・・・。ソルダーノ将軍・・・。お前達戦場を見てきたと言ったな、まさかとは思うが、我が軍は負けたのか?子供に戦場がわかるはずもない。司令や副指令が死んだとしても軍団長がおる。いや、共和派は2正面作戦を展開しているはずだ。こちらにそれだけ戦力を割けるはずもない。だが首席次席参謀までおらんとなると。いや、こちらは18個軍団2個旅団投入しておるしな。」


 マイトランドと会った当初、暗殺による戦死がオルメアだけと思い込んでいたグレイグは、第1軍将軍4名の暗殺にその後の展開の自問自答を始める。

 マイトランドはマイトランドで、自問自答を始めたグレイグを見て、否定された早馬や書簡を除き、自分達よりも先にテイムされたモンスターや、飼い馴らされた犬などにより戦況報告が軍本部に飛んできていると思いこみ、先にオルメアの首だけ出したことに、後悔し提案する。


「あの、第1軍の情報伝達手段は書簡と馬だけですか?会戦後1日でしたら戦場を見てきました。お伝えしましょうか?」


 考え込みながら部屋中を歩き回っていたグレイグは、ハッとしたようにマイトランドに向き直り、


「た、たのめるか。この際子供の視点でも構わん。勝っていたか負けていたかどちらかでもよい。」


「はい、結論から言えば負けたでしょう。」


 すると、先ほどまで直立不動の姿勢であったフランツ軍曹が口を開く。


「中将閣下!子供の戯言に、耳を貸す必要はないと具申致します!我が軍の勝利は間違いないでしょう!」


「うるさい!フランツ!黙っておれ!儂がいいと言うまで口を開くな!」


「失礼いたしました!」


 グレイグに叱責され、口を閉じたフランツ軍曹を尻目にグレイグは、マイトランドの発言に何か含むところを感じ、続ける。


「で?マイトランド。先程の話からすれば、2人は戦場から離れていたはずだ。どの様に我が軍が負けたか説明できるか?」


「中将閣下でいらしたのに、失礼なことばかり申し訳ありません。制服を着ていらっしゃらなかったので。」


「そんなことはどうでも良い。説明できぬか?」


 マイトランドは机の上にあった地図を取り説明を始める。


「先ず、第1軍はゼーテの村頂上部に陣地を構築していました。空から見たところ、敵正面から歩兵軍団、重装歩兵軍団、騎兵軍団、騎兵軍団の両脇に弓兵軍団、魔導砲撃旅団といったところでしょう。翌日、歩兵軍団正面にイスペリア軍が現れます。10~15個師団と言ったところでしょう。接敵後2日間はにらみ合いが続きます。このにらみ合いは我が軍が、伏兵を警戒してかと思います。イスペリア側は正面突破が難しいと踏んだのでしょう。多分ですが、状況から考えるに、二日目の夜に暗殺事件が起こります。」


「ほうほう、空から見たと言うのは?」


「はい。自分のスキルでイーグルアイというスキルがあります。簡単に説明しますと、鳥を想像し視点を自分の目に変えることができます。これにより、上空から戦場を見ておりました。」


「良くわからんが、面白いスキルだな。ではなぜそこから負けたと?」


「はい。やはり司令官、参謀の不在が一番の原因です。司令官を失い、伏兵もいたのでしょう、そこに西、南西、南、南東、東からの一斉砲撃です。」


 そこまで話すとグレイグが口をはさむ。


「ちょっと待て、我が軍の陣形はどんなであった?敵の数は15個師団としても我が軍の1/3ではないか。どの様にしたって負けるはずもあるまい。戦いは数だぞ?ちがうか?」


「はい。戦いは数です。ですが、今回は少し様子が違いました。敵の砲撃に幾度となくさらされ、なすがまま中央の騎兵を守るためか、方円の様な陣形をとり、魔導砲撃旅団、弓兵軍団が各個応戦すると言った感じで、指揮の乱れを感じました。そこから更に追いつめられると、密集体系になり、半包囲されます。その後、その戦場からの離脱を図ろうとしたのか、数に物を言わせて撃破しようとしたのかはわかりませんが、一番薄くなっていた東の敵の一団に歩兵突撃を敢行しました。」


「ふむ、それで?勝ったのではないのか?」


「ここからはランズベルクにも話していないんですが、敵の新兵器と思われる装備が正面の歩兵を壊滅させました。」


「新兵器!?まさか・・・。それは大きな音のする手持ちの兵器か?」


「自分のスキルでは音は聞こえません。ただ、こう両手に持つような兵器あったことは確かです。」


 マイトランドが小銃を構える様なポーズをとると、グレイグは慌てた様子で、


「ちょっと待っておれ。一大事だ。」


 そう言い残し、部屋を出て行った。

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