第9話 プロローグ 8
しばらくして、グレイグがまた別の男を連れて部屋に戻った。
その男は、勲章が沢山ついた制服から見てフランツ軍曹とは違う、明らかに身分の高い軍人であった。
「マイトランドよ、この方は参謀本部長のフルブライト・フォン・グリルファウスト大将である。」
「は、はぁ、なんでまたそんな偉い方が?」
「ばかもんが、しゃんとせぬか!敬礼だ、敬礼!このお方は儂よりも偉いんだぞ。」
グレイグが少し怒ったように、マイトランドに言うと、
「マイトランドと言うのか、フルブライトだ。よろしく。トランガ中将、彼はまだ軍に入隊しておらん、その様に敬礼を強要しても仕方がないではないか。それとも君の仕事は、この国の未来を担う若者に怒る事か?」
まさに先ほどグレイグが、フランツ軍曹に言ったことをそのままフルブライトに言われたのである。
「ふふふ。おっさん面白いな。自分で言ったことそのまま言われてるじゃん。」
空気を読んでか読まずか、ランズベルクが笑い出す。
これに、グレイグは意気消沈した様子でマイトランドに先ほどの兵器の説明を求める。
「マイトランドや、すまんかった。忘れてくれい。それでだ、先ほどのイスペリア共和派の新兵器についてグリルファウスト大将に説明してくれんか。」
謝るグレイグに促され、マイトランドは先ほどの話をもう一度繰り返した。
するとグリルファウスト大将は、
「うむ、多分だが、ドルトン銃だな。イドリアナが義勇軍を派兵したとは聞いてはいたが、まさか武器供与までとは。」
つい先日まで、昨年秋のイドリアナ連合王国のイスペリア共和国への義勇軍派兵はウェスバリアの知りえる情報となっておらず、4日ほど前にハイデンベルグ帝国情報部からの情報で派兵が発覚することとなった。
つまりこの時点で武器供与の情報はまだウェスバリアに入っておらず、イドリアナ連合王国の新兵器、ドルトン銃は、同じ装備を持つハイデンベルグ帝国と太いパイプを持つ、軍上層部の将軍しか知りえないのである。
「ドルトン銃とはなんでしょうか?」
マイトランドが尋ねると、グリルファウスト大将は少し困った顔をしながら答える。
「うむ。お前入隊しても秘密を守れるか?」
「それは・・・。はい・・・。守ります。」
「では、もし他言した場合は、軍の規則に則り処罰をするが良いかな?」
「はい!」
マイトランドが勢いよく返事をすると、グリルファウスト大将は哄笑し、
「嘘だ。軍人でない者に、処罰なんぞするわけもない。どうせ二か月後には、皆の知るところとなろう。ドルトン銃とはな、イドリアナのドルトンによって開発された、筒状の金属から、火薬によって、弾と呼ばれる鉄の塊を高速ではじき出す兵器だ。そうだな、魔法が使える者であれば、鉄の塊を高速で打ちだすことも可能だろう。だが、この銃と言われる兵器の恐ろしいところは、魔法適性が無いどんな者にでもできてしまうという事だ。」
「一時的にでも魔術師が増えるということですか?」
「そうではない。魔法は詠唱さえあれど、魔力の続く限り連射は可能であろう。それに広範囲にわたり砲撃が可能だ。銃という物は、装填という打ち出す弾丸を筒の中に込める準備作業を行うのだが、これは魔法で言う詠唱に近いかもしれん。打ち出す動作を射撃と言うのだが、射撃は魔法よりも正確性に欠けるうえに、連続で射撃すると筒が熱くなり、射撃ができんようになってしまう。」
「魔法の劣化版と言ったところですか。そこまで正確にわかっているという事は、ウェスバリア軍にもあるのですか?」
「今はサンプル品の1丁しかない。近々ハイデンベルグ帝国より、正式に借り受けることになっているがな。」
「そんな情報を、ほいほい自分なんかに喋ってしまっていいのですか?」
マイトランドが不思議に思い尋ねると、グリルファウスト大将は頭をかきながら答える。
「先ほども言ったが、隠したところで、いずれわかってしまうだろう?それで?どうであったか?その様な物であったのか?」
「言われてみればですが、歩兵部隊が敵に到達前に倒れていた様な気もしますね。でも歩兵部隊だって剣と槍だけって訳でもないじゃないですか。シールドもありますし、鉄の塊と言っても、魔法でないのなら鉄製のシールドなら防げるのではないですか?」
「それがな、高速で射出される鉄の塊は、角度によってシールドを貫くようだ。それに私も集団での射撃を見たことはないのだが、銃の真の脅威は、音にあるようだ。相対する者にとって、見たこともない100人単位の射撃の爆音は、脅威以外のなにものでもないとのことだ。」
「うーん。申し訳ありません。銃という物を、あの戦場以外では見たことがないので、何とも。」
「そうか。それでは持ってこさせよう。他に気付いたことはあるか?」
グリルファウスト大将に、そう言われてマイトランドは少し考え込んでいると、ランズベルクが周りに聞こえるようにマイトランドに耳打ちをする。
「アレ、聞いてみたほうがいいんじゃないか?」
マイトランドは“アレ”の意味が解らずに聞き返す。
「アレってなんだよ。」
「ほら斧に鷹の紋章だよ。」
ランズベルクが“アレ”の正体を口にした。
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