第10話 プロローグ 9
ランズベルクが“アレ”の正体を口にすると、グリルファウスト大将が、
「斧に鷹?なんのことだ?」
「4名の暗殺者が持っていた柄頭に入っていた紋章です。イスペリアの国旗ではなかったので気になりました。」
グリルファウスト大将は頭を右上に向け少し考えると、腰から羊皮紙を取り出し、おもむろに2つの紋章らしきものを書きだした。
「私の思い当るところで、斧と鷹と言えばこの2つだ。これとこれどちらが近いか?」
マイトランドとランズベルクは顔を見合わせると、2人から見て右側の紋章を指差す。
「本当か?本当にこちらだったのか?」
「はい、間違いありません。」
マイトランドが答えると、グリルファウスト大将は隣にいるグレイグに大声で命令する。
「グレイグ中将!大至急、軍の緊急会議を行う。戦場にいる者以外の全ての上級将校に通達せよ!」
「はい!承知しました!」
グレイグはそのまま勢いよく部屋を出ていった。
マイトランドは不思議に思い、グリルファウスト大将に確認をする。
「あのどこの国の紋章だったのですか?なぜ緊急会議なのですか?」
「まだはっきりとは言えないが、カルドナ王国が、敵に回ったかもしれん。万が一を考えて、急いで国境に第2軍を編成して送り出さねばならなくなったかもしれない。という事だ。」
「ではその紋章はカルドナ王国の紋章だという事ですか?」
「そういう事になるな。」
グリルファウスト大将はそう答えると、部屋のドアからコンコンと音がすると、ガチャリと音を立て開く、
「失礼します!大将!ドルトン銃をお持ちいたしました!」
その声と共に軍人が入ってきた。階級は服装から見るにフランツ軍曹と同じくらいだろう。
その軍人は、ドルトン銃と思われる長い包みをグリルファウスト大将に渡すと、
「失礼します!」
そう言って部屋を出て行った。
グリルファウスト大将はその包みを開くと、ドルトン銃と思わしき物を足り出し、マイトランドにそれを構えて見せる。
「この様な物であったか?」
マイトランドは自分の記憶を呼び起こし答える。
「少し違いましたが、構え方などは大将の構えと同じだったと思います。」
「そうか、これは帝国が独自に作ったドルトン銃だ。イドリアナの物とは違うだろう。これで武器供与が確定したな。よくやった。もう帰ってよいぞ。国立図書館、資料館共に、私の名で2人を入れるようにしておこう。好きに使うと良い。」
そう言ってグリルファウスト大将はドルトン銃を袋に戻すと、部屋の扉に手をかける。
「そう言えば、2人のフルネームを聞いていなかったな。名前は?」
「マイトランド・ラッセルです!」
「俺はランズベルク・メレディアスです!」
2人が名前を言い終わると、グリルファウスト大将は扉を開け最後に、
「2人は今年15であったか。来年徴兵されて軍に入るのだな。まっているぞ。その時には今回の礼も兼ねて便宜を図ろう。前線に行きたくないと言うのならそれもよい。」
「それはオルメアの様な将軍の軍師になれるってことですか?」
マイトランドは戦場からの帰路で、何度もオルメアの“未来の俺の軍師”という言葉を思い出していた。
「面白いことを言うな。トランガ少将自体が軍師であったのに。それに軍参謀規定では新貴族、貴族以外は戦術、戦略教育を受けてはおらんから参謀勤務は無理だぞ。」
「自分の様な平民では無理だという事ですか?」
「無理。無理かと聞かれれば、無理ではない。でも道は険しいぞ。」
「道は険しいですか。人の倍、いや10倍頑張ります!」
「わかった。とりあえず新兵教育を首席で修了せよ。それができたら私の元へ来い。」
グリルファウスト大将はそう言い残すと、マイトランドの返事を聞かずに部屋を出ていった。
残された2人はフランツ軍曹に連れられ、軍本部から出ると、ランズベルクがマイトランドに尋ねる。
「マイトランドぉ、珍しくやけに熱くなってたな。どうしたんだ?」
「あぁ、まぁ俺の中で、ちょっとした気持ちの変化があったわけだ。」
「なんだそれ?話してみろよ。」
「うん、笑うなよ?」
「笑わねーよ。言ってみろって。」
「あのさ、俺、平民だけど軍師になるわ。協力してくれるか?」
「もちろんだ!でも何すればいいんだ?」
「それは考えてある。とりあえず、帰るか。」
2人は2週間かけて故郷トロンの村に着くと、各々の家へと帰る。
2人は暇があれば食料を溜め、体力練成へと2週かけて首都へ向かい、国立図書館、資料館で、本や資料を読み漁る。
来る日も来る日も体を鍛え、本を読む。村人達はそんな2人を心配するどころか、目標を見つけてくれたと喜んだ。
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