第6話 プロローグ 5

 2人は徹夜で歩き朝になると突然、


ゴォォォォン


 という轟音がウェスバリア陣地から何度も響いてきた。


「イスペリア魔術士部隊の突撃準備砲撃だな。ランズベルク、見ろよ。村が燃えている。5方向からの準備攻撃に、こちらは反撃もしない。それどころか準備すらしていない。もう終わったな。」


「あぁ、俺が見てもわかるぜ。突然の砲撃に逃げ惑ってるだけだな。マイトランド、お前ならどうする?」


「俺なら・・・か。この状態になったら魔術師部隊に、防御魔法を展開させたら硬い重装歩兵を前面に出し全軍で後退、1方向からの砲撃に耐えつつ、敵の砲陣地を前進させて、数で勝る騎兵による側面攻撃ってとこだな。司令官がいない状態からなら誰がやっても死者はかなりの数出るぞ。結局のところ勝敗は戦いの前に決まっているってことだ。」


「お前でも無理か。それじゃあこの後を見たって意味ないな、帰るか。」


「そうだな。帰ろう。」


 この後、ウェスタリア軍は臨時軍司令の指示で、陣地前面の2個歩兵軍団を犠牲にして撤退、また撤退中に極地的な抵抗は出来たものの、かなりの損害を出し、国境から1週間ほどのツェニーの街まで押し戻される。


---


 2週間後、2人は国境を越えると、トロンの村が見えてきた。


「やっと帰って来たぞ。まさか2ヶ月も村を離れて殆ど戦闘を見れないなんてな。」


「あぁ、確かに。何しに行ってたかわからなくなるよな。首を運ぶだけの旅?てかさ、言いにくいんだけど、その袋かなり匂うぞ。」


 ランズベルクは、俺が背負っている首の入った袋を指さしながら言う。


「ひどい匂いだよな。帰ったら川にでも行って体を思いっきり洗いたいよ。」


「あぁ、うん、そうだな。でもさ、その首どうするんだ?」


「首都の軍本部にでも持って行こうと思ってる。付き合ってくれるか?」


「いや、お前、村の役人にでも渡せばいいだろうが。」


ランズベルクが少し怒ったように言うと、マイトランドは笑顔で答える。


「オルメアの首は、責任もって俺が持って行かなきゃならないような気がするんだ。」


「しょうがねぇ、付き合うぜ。お前は言ったら聞かないもんな。それに恩賞も期待できそうだ。」


 故郷トロンの村で十分な休息を済ませた2人は、目的地を首都に変え再び出発する。


 首都近郊までは何事もなく2週間で到着した。2人は首都には入らずに郊外の軍本部を目指す。軍本部に近づくにつれて、背の高い建物が増えていくとランズベルクが驚いた様に声を上げる。


「でっかい建物だなぁ。おい!見てみろよマイトランド!この建物石で出来てるぞ!」


「それは石じゃない。煉瓦だ。ランズベルクも見たことあるだろ?村の窯にも使われてるアレだ。」


「なんだ、煉瓦か。ってことはこの建物は窯で出来てるってことか。でっかいだけで、大したことねぇな。」


「お前なぁ。アラン先生から習ったろ?窯で使っている煉瓦とはちょっと違うけど、ほぼほぼ同じものだ。建物にも使われているんだぞ?」


 煉瓦には、窯や暖房器具の様な物に使われる耐火煉瓦がある。これは水分に弱いと言う特徴があり、雨季の存在するウェスバリアでは建物には使われていない。

 この知識は2人が7歳からのアランと呼ばれる男に習っていた。アランは先生と呼ばれ、素行の悪い二人の噂を聞きつけて、近隣からトロンへ移り住んだアラン・ウォルキンスである。

 アランは、マイトランドに軍略の才があるとみると、戦術、戦略の基礎を教え、ランズベルクには魔法を教えた。

 基礎を教えると、マイトランドは放っておいても勝手にアランの本を読み漁り、勝手に成長した。

 スキルの発現、スキルの使用、魔法、鑑定などは、全てこのアラン・ウォルキンスによる教えのたまものである。


「先生なぁ。ホント何してるんだろうな。戦争始まる前にいなくなっちまったからなぁ。」


「本当だよな。戦争が始まるのが国境付近だって分って逃げたのかもな。」


「あの先生ならありそうだ。でもよ、もともと先生は帝国軍人とかなんとか言ってたよな。」


「ああ、言ってたな。ウソかもしれないけどな。」


「先生見るからに弱そうだったしな。」


 アランの話に盛り上がっていると、ことのほか早く軍本部前に到着した。

 

 マイトランドが軍本部前の兵士に事情を説明すると、驚いた顔で兵士は布の袋の中身を確認し、マイトランドを中へ迎え入れた。

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