第145話 トレーナ会戦 後編 3

 カルドナ王国軍第13銃歩兵師団は、敵ウェスバリア軍第9騎兵師団を味方の第72騎兵師団が後退を阻害、射程内にその全ての部隊を捉えると、指揮官であるウーゴ・ミラベッロ少将が射撃命令を下した。


 乾いた銃声が重なって轟音となり、鉛の弾が第9騎兵師団へと着弾すると、軽装ながらも奮戦していた第9騎兵師団の前列騎兵が崩れ去り、騎乗していた馬と共に地面を舐めた。


 それを確認した第13銃歩兵師団師団長ミラベッロ少将は、最前列に着剣を命令すると共に二列目と入れ替え、二列目へ斉射の下命した。


「突撃に!」


 再び戦場に轟音が響き渡り、ミラベッロ少将が一言大声で叫ぶと、第13銃歩兵師団一列目は、顔が沈みかける夕日と共に映り込む、磨かれた着剣状態の銃を構え突撃の体勢に移行した。


「進め!」


「「「「ウォォォォォ!」」」」


 ミラベッロ少将は、自身の命令が行き渡り、一列目が恐怖を払拭するほどの大声と共に突撃したのを確認すると、後方の直協部隊である魔導砲兵連隊に通信、照明魔力弾を敵第9騎兵師団の頭上に放たせ、味方である第72騎兵師団に自部隊の突撃の合図とした。


 左後背から第72騎兵師団、前方から第13銃歩兵師団に挟撃される、ウェスバリア軍第9騎兵師団シャルパンティエ少将は、この状況から脱出するため第2軍総司令部へと通信、第24歩兵師団の後方にて待機するヴァルター・フォン・シュライヒ中将指揮下の第2歩兵師団15800名へと救援要請を発した。


 シュライヒ中将は、直ちに第24歩兵師団の後方から師団を最右翼へと移動させると、歩兵師団の限界速度をもって、薄暗がりを最前列へと行進を開始した。


 ウェスバリア軍のこの行動に、カルドナ王国軍第4軍司令官であるアンプロージョ少将は、空の暗さを確認すると、後方に待機させていた、7個空戦中隊を第2歩兵師団へと投入、7個空戦中隊は、大岩を飛龍に持たせると、第4軍後方から飛び立った。


 日が沈み、照明弾が上がる更に上を飛龍に騎乗した7個空戦中隊は飛行し、対空迎撃を受けることなく、ウェスバリア軍第2歩兵師団の頭上に到着すると、飛龍にその大岩を手放させた。


 大岩は多数の行進中である第2歩兵師団の歩兵を巻き込みながら、地面に激突した。

 かなりの高度から落とされた大岩は、まさに爆撃と呼ぶに相応しいであろう。

 激突後はじけ飛ぶと、その周囲に大量の破片を飛ばし、1つの大岩が数十名の歩兵の命を一瞬にして奪い去った。


 シュライヒ中将は、これに後方で展開する第73魔導砲兵旅団に対空防御を依頼すると、その進軍速度を落とし、暗がりが広がって行く上空の警戒に務めた。


 その後は敵空戦中隊の爆撃は無かったものの、第2歩兵師団の速度低下により結果的に、第9騎兵師団は孤立、敵銃歩兵の銃撃、騎兵師団の突撃を受けると、その数を徐々に落としていった。

 

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 さて話は戦線最右翼である第11騎兵師団へと変わる。


 敵の7個空戦中隊は、大岩で第2歩兵師団に損害を与えた後で、当司令部後方に戻ると、小さな岩をもって、ウェスバリア軍第11騎兵師団方向へと進路を変え再び上空に姿を隠した。


 敵の爆撃を通信で知ったトゥルニエ少将は、直協の2個大隊に対空警戒を厳にさせると、キスリング支隊にも同様に念を飛ばした。


 第9騎兵師団よりも、少し遅れて突撃を開始した第11騎兵師団は、この時初めて接敵、側面のカルドナ王国軍第18歩兵師団による苛烈な銃撃をもろともせずに、敵第5重装騎兵師団の左翼をその突破力によりこじ開けると、第5重装歩兵師団の最左翼を壊滅至らしめた。


「11連隊はそのまま敵と交戦せよ。後方に回り込む弓騎兵連隊規模は放っておけ、81連隊、83連隊は速度を付ける位置まで後退、11連隊の交戦する地域を避け突撃を開始せよ!」


 トゥルニエ少将は第11騎兵師団である第11騎兵連隊、第81騎兵連隊、第83騎兵連隊に下命すると、自身も第87騎兵連隊に混ざり、突撃準備にかかった。

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